ロボット共生を実現する7つのチカラ――さがみロボット産業特区(神奈川県):地方発!次世代イノベーション×MONOist転職
「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第8回。生活支援ロボットの「実用化」に徹底して取り組み、「さがみ発」ロボットの商品化で実績を上げている「さがみロボット産業特区」を紹介する。
イノベーションの概要
「鉄腕アトム」をイメージキャラクターとする「さがみロボット産業特区」。2013年2月に特区の指定を受け、神奈川県中央部、さがみ縦貫道路(2015年全面開通)を取り囲む10市2町(相模原市、平塚市、藤沢市、茅ヶ崎市、厚木市、大和市、伊勢原市、海老名市、座間市、綾瀬市、寒川町、愛川町)に位置する。「生活支援ロボットの実用化を通じた地域の安全・安心の実現」を目標に掲げ、「災害対応」、「介護・医療」、「高齢者などへの生活支援」のテーマで、規制緩和、開発支援、実証実験、立地支援などを進めている。
さがみロボット産業特区は、実用化を加速するために徹底した出口戦略を取っているのが特徴。早期に県民の目に触れる実証実験が可能で、県民生活に対するインパクトが大きいなどの案件を集中的に支援する「重点プロジェクト」、全国から実証実験を公募し、採択された案件には実証実験場所やモニターの手配、関係機関との交渉、技術指導など総合的にサポートする「公募型ロボット実証実験支援事業」、中小企業の共同開発を推進する「神奈川版オープンイノベーション」に取り組んでいる。
2017年8月時点で商品化されているのは、麻痺した手指や足首関節の曲げ伸ばしをサポートする「パワーアシストハンド・レッグ」、人の立ち入りが困難な災害現場での情報収集ロボット「アルバトロス」、火山活動対応地すべり警報システム、高度な人工知能を搭載したヒューマノイドロボット「PALRO」、視覚障害者をサポートし、行きたい方向に先導するガイダンスロボット、水にぬれると膨らむ浮き輪を運搬し投下する災害救助対応ドローンなど14件。これまでに行われた実証実験は147件で、中には高速道路での自動運転や、常に白い噴煙が立ち込めている箱根の大涌谷に火山対応ロボットを投入するなど、国内初の実験もある。
また普及させるために、実際の暮らしに近い環境でロボットを体験できる「ロボット体験施設」、購入検討のために一定期間モニター利用できる制度、介護施設などでロボットを実際に体験してもらう「ロボット体験キャラバン」などにも取り組み、多くの県民や施設に利用されている。
イノベーションの地域性〜神奈川といえば……
総務省統計局が公表している2015年国勢調査の数字によると、神奈川県の人口は約912万人で、東京都に次いで第2位、人口密度は約3800人/km2で第3位である。2010年からの人口増減率は、全国が-0.8%と減少しているのに対し、神奈川県は0.9%増加しており、2017年の転入者は転出者より1万3528人多い。
多くの人が暮らす県であると同時に、見どころの多い県でもあり、自然、歴史や文化、産業遺産、都市景観などさまざまな楽しみ方ができる。神奈川県が2015年3月に発行した観光ガイドブックには、このように書かれている。
海と夜景が美しい国際都市「横浜」、歴史と文化が息づく古都「鎌倉」、城下町の伝統を今に伝える「小田原」、文人に縁の深い「湯河原」、雄大な自然と温泉郡、さまざまなアートが楽しめる「箱根」、「丹沢・大山」の豊かな山なみや、「三浦半島」から「湘南海岸」「真鶴半島」に至る美しい海岸線……
さがみロボット産業特区に指定されている県中央部には、全国トップレベルのロボット関連産業が集積。県内の研究開発人口の約5割が集中しており、高齢者施設や公的機関など、実証実験に適した場も多い。生活支援ロボットの実用化促進に適したこのエリアも、近い将来、名所の一つに加えられるかもしれない。
ここに注目! 編集部の視点
この取り組みで興味深いのは、出口戦略と同様に徹底して行われているPRである。例えば、歩行者用信号機の絵柄に鉄腕アトムのシルエットを使った「アトム信号機」、さまざまな地域イベントで行われているアトムのフィギュアを探す「アトムを探せ!」、アトムのラッピング電車「アトムトレイン」、手塚プロダクションが手掛けた動画「ROBOT TOWN SAGAMI 2028」など。また各ロボットを、鉄腕アトムの「7つのチカラ」になぞらえた7つの分野に分類し、ホームページやポスターなどして紹介している。
動画では、当たり前にロボットを活用するだけでなく、むしろ一緒に生活している様子が描かれており、2018年度からスタートする第2期では、
「ROBOT TOWN SAGAMI 2028」で描いた「ロボット共生する社会」の実現を目指し、戦略的・段階的に取り組みを進める
としている。実用化といっても、「使える」ものができるだけでなく、「使う」人たち、興味を持つ人たちがいることも不可欠。使われるロボットを作り、「ロボットと言えば、さがみ」を実現しようという本気度がうかがえる。
「さがみロボット産業特区スペシャルムービー」の最後では、こう語られている。
アトムが生まれた当時、まだ夢の世界にいたロボット。それが今、人のいのちのパートナーとして、ここ「さがみ」で少しずつ形になろうとしているのです
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