「初音ミク」も産んだ歴史あるIT産業集積地――北海道IT産業クラスター(北海道):地方発!次世代イノベーション×MONOist転職
「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第5回。札幌を中心とした北海道で推進されている「北海道IT産業クラスター」を取り上げる。
イノベーションの概要
経済産業省は、産学官連携による広域的なネットワークを形成し、世界に通用する新産業・新事業が次々と創出される「産業クラスター計画」を2001年から推進している。推進プロジェクトの一つである北海道では、IT分野とバイオ分野を両輪に、2001〜2006年度の「北海道スーパー・クラスター振興戦略」で、「世界に通用する企業群を輩出するスーパー・クラスターの形成促進」、「目に見える成功事例の創出」を目標に活動。2007年度からはIT・バイオ分野を独立させて、ITに関しては「北海道ITイノベーション戦略」とし、「『下請け集積地』から『システム重要部品の製造供給基地』への転換」、「地域産業とIT産業との好循環」、「海外連携の活発化による競争力強化」を目標に推進してきた。その結果、ITクラスターへの参加企業は開始当初の約230社から357社(1.4倍)に、売上高4125億円(1.7倍)、従業員数1万9950人(1.3倍)となった。
そもそも、経済産業省の産業クラスター計画において、なぜ北海道のITだったのか。
プロジェクトの選定に当たっては、地域の研究開発のポテンシャルや産業集積の特徴などが考慮された。北海道は、独自にクラスター形成の取り組みを進めており、「サッポロバレー」として北海道大学から札幌駅北口にかけてIT系企業が集積していることや、高い技術力を持つ企業が多いこと、長年にわたって人的ネットワークが形成されていることが選定理由だった。
2011〜2020年度までの10年は「北海道ITアジャイル戦略」を掲げている。「クラウドやモバイルに対応するソフトウェア・アプリケーションの開発拠点形成」、「食・観光分野で北海道を最先端のIT利活用地域へ」、「世界に通用するITベンチャーの輩出」を3本柱に、2020年度の売上高6000億円、雇用2万5000人を目標とする。
イノベーションの地域性〜北海道といえば……
北海道と一括りにするには広すぎるのが北海道。四方を囲む海、山々や湿原など、多彩かつ雄大な自然環境が魅力で、日本人のみならず外国人にも人気が高く、2015年度に北海道を訪れた外国人観光客数は208万人に達している。2020年度には外国人観光客500万人を目標とし、今年2月には「北海道インバウンド加速化プロジェクト」を策定して、全道で観光地としての質や魅力度の向上に取り組んでいる。
北海道庁が公開している「北海道データブック2017」によると、北海道が位置する北緯41度21分〜45度33分は、「シカゴ、モントリオール、ローマ、バルセロナなど世界の主要都市とほぼ同緯度」にあり、「北海道と気候や風土の類似している北方圏の諸地域(アメリカ北部・カナダ・北欧諸国・ロシア極東・中国東北部など)との交流を通じ、相互の地域発展を図る『北方圏構想』を推進」しているそうだ。
また同データブックによれば、工業では食品工業が約3割を占め「これを含む地方資源型工業が38.6%」。「工業の発展力を高めるには、独創的な技術開発の促進や付加価値の高い製品開発などによる地域産業の活性化、幅広い産業・機能の立地促進、産業拠点の形成などを図る必要」があるとの考えから、2007年には「中小企業の製品開発や市場開拓などの支援」や、「研究開発から事業化へ至る各段階における支援を行う総合支援体制」を整備するとした「北海道産業振興条例」も施行されている。
北海道ならではの産業構造とグローバルな視点、また脈々と息づいているであろう開拓者精神を考えれば、「世界に通用する」企業を輩出しようという取り組みが活性化するのも、何ら不思議はない。
ここに注目!編集部の視点
北海道における産業クラスター創造の取り組みは、20年以上の歴史がある。1995年に道内経済4団体の勉強会が行った産業クラスター創造の提言に端を発し、翌年「北海道産業クラスター創造研究会」が発足した。
産業クラスター計画がスタートした2001年には、「研究開発から事業化まで一貫した支援」を活動理念とする「公益財団法人北海道科学技術総合振興センター」(略称:ノーステック財団)が発足。同センターは、北海道や札幌市と連携しながら、未来へつながる研究の推進、ビジネスの創出・拡大、北海道大学北キャンパスとその周辺に研究環境やビジネス環境を整え、新技術・新製品、ベンチャー企業・新産業を創出する取り組み「北大リサーチ&ビジネスパーク支援事業」、地域産業界が大学などの研究成果を活用するために設置された産学官共同利用研究施設「北海道産学官協働センター」(愛称:コラボほっかいどう)の運営などを行っている。
サッポロバレーに至っては、1976年に北海道大学に設立された「北海道マイクロコンピュータ研究会(マイコン研究会)」が起点。サッポロバレー出身のITベンチャーには、例えばBASICインタプリタを開発したビー・ユー・ジー(1980年設立、現ビー・ユー・ジーDMG森精機)、任天堂のファミコンとともにゲームソフトのヒットメーカーとなったハドソン(現コナミデジタルエンタテインメント)、世界的な人気アイドル(?)「初音ミク」の生みの親、クリプトン・フューチャー・メディアなどがある。
サッポロバレーの活発化を背景に、2000年には、IT起業家のビジネス交流の場を目的とする「札幌ビズカフェ」も発足。ITの活用領域が急速に広がっていることから、IT人材の交流にとどまらず、農漁業などさまざまな分野へのIT化の橋渡し、クリエイティブ産業化の導入、起業家人材の育成と幅広く活動し、札幌におけるIT産業成長のプラットフォームの一つとなっている。
IT、あるいはICTは、もはや日常生活の一部になっている。札幌を中心とした北海道の立体的、継続的な取り組みは、時代のニーズを追い風に、北海道を支える産業の基軸となっていくのかもしれない。
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