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「革新ライン」が動きだしたKYB岐阜北工場、クルマの個性を支える足回りの秘密乗って解説(2/3 ページ)

KYBの売上高の過半数を占める四輪車用のダンパーと電動パワーステアリング(EPS)。クルマの個性や運転の感触を決める重要な部品でもある。KYBの岐阜北工場で、ダンパーやEPSの競争力を支える生産ラインや評価施設、テストコースを訪れた。

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開発実験センターで評価試験見学と、EPSやダンパーの違いを試乗で体感

 同じ岐阜県にあるオートモーティブコンポーネンツ事業本部 技術統括部 開発実験センターへ向かう。ここには2015年に開設されたKYBの自社テストコースがある。さらにテストコース敷地内にシステム実験棟を移設して開発をより効率化している。いずれ一体化した開発センターとして組織を再構築する計画のようだ。

 システム実験棟では、設計も行っている他、評価試験が行われている。ここではさまざまな評価試験のうち、ダンパーの耐久試験や特性計測、EPSの耐久試験、性能評価の模様を見せてもらい、CVT用ポンプについてもどういった試験を実施しているか説明を受けた。

 ダンパーの機能耐久試験は、テスターにかけて毎秒1mのストロークスピードで100万回加振する。これは1週間〜10日間かけて行うもので、5年10万kmの耐久性を確保するための試験だ。さらに−40℃(車種によっては−20℃)の低温下でも耐久試験を行う。

 自動車メーカーに純正部品として供給するからには、こうした品質耐久試験は必須である。さらに新車に装着するためには性能面、信頼性の面だけでない性能も問われるのだ。それが音振エリアに備えられたスウィッシュ音測定機。これはダンパーの作動音、すなわちストロークする際にダンパーオイルが流れる音を測定し、評価するものだ。ストロークが早く大きく、バルブ上下のオイル室に生じる圧力差が大きくなるほど音も大きくなり、車体への伝わり方でも静粛性に影響が出るそうだ。

 さらに興味深かったのは横力リアルタイム測定である。近年、フロントサスペンションは複雑な型式からシンプルなストラットが再び主流になりつつある。軽量で高剛性、豊かなストロークを設計と生産技術で実現できるからだ。それでもマルチリンクやダブルウィッシュボーンとは異なり、ストラットはダンパーのインナーロッドに伸縮方向以外の応力が発生してしまう。車体に対してハの字に取り付けられているため、走行中にはダンパーには曲げ応力となる横力が発生するのだ。

 コイルスプリングをオフセットして装着することで、ある程度の横力は相殺できるし、足回りの設計でもダンパーの負担を軽減できる。事実、KYBの実車による横力リアルタイム計測では、日本車に比べドイツ車の方がストラットにかかる横力はずっと少ないことが判明したのだ。1G、すなわち静止状態でも車種によってはダンパーに1000Nもの横力が発生しており、最も少なかった車種は204Nとほぼ5分の1だった。走行状態を再現するべく加振すると、その差は縮まったが最大車種は2700Nを超え、最小の1300Nの2倍もの数値となった。

 つまり、こうした足回りの基本的な能力について、日本車はまだドイツ車には追い付いていないことが明確に示されたのである。これはストラットにどういう役割を持たせるかという考え方の違いでもあるのだが、ダンパーやコイルスプリングといった個々の能力を高める一方で、サスペンションのジオメトリについても課題はあったのだ。

 EPSの性能試験機による操舵(そうだ)感台上試験機再現も興味深かった。DCブラシレスモーターを使い、微舵域での操舵を再現し、切り足しや戻した時の操舵感を数値化するのである。その評価もフィールを壁感、抜け感、ブラブラ感といった独自のパラメータで表現している。中立付近のガタやスッキリ感といった要素もあった。しかも単純に操舵を繰り返しても問題ない仕様でも、操舵を途中で止めて断続的に動かすとフィールに悪さが出るそうだ。


マイナーチェンジ前後で異なるEPSのフィーリングをスバルのレヴォーグで体感した(クリックして拡大)

 テストコースで最初に試乗したのは、SUBARU(スバル)の「レヴォーグ」。このクルマではEPSの仕様による操舵感の違いを体感する。まず1600GTのマイナーチェンジ前の市販車に試乗。アシストが適度でステアフィールに非常に上質感を感じた。さすがは市販モデルだが、ここまで煮詰めるのもかなり大変だったことだろう。

 続いてマイナーチェンジ後のレヴォーグに試乗する。EPSではステアリングラックを支えるサポートをフッ素樹脂に変更することでフリクションを軽減していると言う。制御でアシスト量を増やすことで軽さを出しているわけではないので、フリクションがないだけでなく滑らかさを伴った感触だ。ただ個人的にはやや操舵力が軽過ぎると思ったので、操舵のフィールとしてはマイナーチェンジ前の方が好みではあった。

 そして、その場でパラメータを変更してもらうことで操舵感がどれほど変わるのか、試してみた。ちなみにKYBではEPSの制御パラメータはベースアシストに始まり、ダンピング制御、モーター角速度制御、操舵角制御、トルク微分制御、戻り制御とおよそ6つの要素があるそうだ。このうちダンピング制御だけを変更してもらうと、ステアリングを切った時の手応えが軽くなってスカスカしたステアフィールになってしまった。EPSの制御のチューニングを変えるだけで、これほど変わってしまうとは驚いた。シンプルな構造のEPSもやはり奥深い。

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