従来比6万倍の速さで自己修復するセラミックス、人間の骨と同じ治り方だった:材料技術(2/3 ページ)
物質・材料研究機構は、自己修復するセラミックスの修復速度が最速で従来比6万倍になり、発生した亀裂を1分で修復できる技術を開発。航空機エンジンのタービンなどに用いられている金属材料をセラミックスに代替でき、大幅な軽量化によるCO2排出量の削減につなげられるという。その修復プロセスは、人間の骨と同じだった。
母材であるAl2O3が重要な役割を果たしていた
今回の発見で重要だったのは、自己修復セラミックスが、人間の骨と同様のプロセスで“自己治癒”することの詳細な解明だった。
人間の骨の自己治癒プロセスは「炎症期」「修復期」「改変期」の3つに分けることができる。炎症期では、骨に亀裂や損傷が起こると血液が流入して、治癒の足場となる血腫を作る。そして修復期で、この血腫が骨膜細胞などになって低強度な仮骨を形成し、改変期で、仮骨が骨細胞となって完全に修復する。長田氏は「人間の骨が一般的な脆性材料に比べてはるかに長い100年以上の寿命があるのは、この自己治癒によるところが大きい」と述べる。
自己修復セラミックスの自己治癒もこれら3つのプロセスと同様のことが起きていた。まず炎症期では、亀裂に大気中の酸素が入り込み、SiCを酸化して亀裂の表面にSiO2を生成する。ここまでは従来も知られていた現象だったが、重要なのが修復期と改変期だ。修復期では、セラミックスの母材であるAl2O3とSiO2が反応してアモルファスに近い特性を持つ液状の過冷却融体となって亀裂を埋める。そして改変期では、過冷却融体がアモルファスよりも強靭な結晶に変化する。結晶は、SiO2の結晶相の1つであるクリストバライト(方珪石)と、亀裂との界面に沿った箇所にAl2O3とSiO2から成る結晶相のムライトの2種類だった。
長田氏は「これまで、セラミックスの自己治癒の研究では、炎症期に当たるプロセスで重要な役割を果たすSiCを他の材料に代替することが多かった。しかし、より重要なのは修復期と改変期であり、母材であるAl2O3だった。これにより、セラミックスに自己治癒機能を付与するための新たな設計手法を考案できた」と強調する。
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