進捗いまいちな廉価産業用VRシステム、日本は“それ以前”の問題か:産業用VRカレイドスコープ(4)(2/3 ページ)
本連載では産業全体のVRの動向や将来展望について深堀りして解説していきます。今回は、産業用VRを取り巻く環境についての現状の最新動向について説明します。
産業用VRをとりまくVR機器の動向、ワイヤレス化と法人利用対応
VR機器の動向については、ここ最近の大きなトピックとして、2017年10月以降、「Windows Mixed Reality」対応ヘッドセットが各社から発売となり、一般ユーザーが入手可能な状態となったことが挙げられます
1つ予想外だったのは、Windows Mixed Realityヘッドセットは当初、デルやHP、レノボといった海外メーカー5社のみが参入を表明していたところ、国内メーカーである富士通が2017年10月に突如参入を表明したことです。同年11月30日に販売開始したので、発表をしないまま、海外勢と大差ないペースでひそかに準備を進めていたということになります。法人取引という意味では、富士通の取り扱いは業務用機器としては非常にありがたいところです。
富士通らしく、Windows Mixed Realityヘッドセットに要求されるPCの規格(Windows 10 Fall Creators Update以降、第7世代Core i5以上、メモリ8GB以上、HDMI 1.4またはDisplayPort 1.2以上)を全て満たしていて、事実上接続動作が保証されているノートPCを同時にリリースすると表明しています。日本の企業がVR導入の際に、何に不安に感じて、何が導入拡大の障害になっているかを徹底的に調査し尽くした戦略だと感じました。
これまではエンターテインメント用機器、法人保証のない家庭用機器の業務転用を認めない社内規則によって産業用VRシステムの導入が認められなかった会社(日本にはこういう会社、結構あるんです)にも導入が可能になると期待されます。
Valveからは、HTC ViveをはじめとするSteamVR用の新ベースステーションが発表になり、4台使用することで最大10m四方の動作エリアが可能となると発表されました。
HTC Vive用のワイヤレス化機器「TPCast」は国内商社のアスクで取り扱うことが決まりました。日本国内での発売は2018年2月を予定しているとのことです。この機器を使うことで、PCとHMDの間をつなぐケーブルを気にせずに使えるようになります。
HTCからポジショントラッキングが可能なスタンドアロン型HMD「Vive Focus」が発表され、産業用VRのワイヤレス化、PCレス化が進むと思われます。ただし「Window PCベースのスタンドアロンではなく、あくまでスマートフォン用チップであるSnapdragon 835」のポジショントラッキング機能をベースにしたものであるため、Windows用のVRアプリケーションとの互換性はなく、外部ファイルアクセスの制限や限定される3D性能に産業用VRソリューション各社が対応するまで時間を要するとは思われます。
Facebookからは、HTC Viveに遅れること2年余り、ようやくOculus Riftの法人使用保証プランが登場し、産業用VRについても入手や保証内容だけでなく、ようやく表示性能や装着感でHMDを選ぶことができる状況になりました。ただし日本に代理店がなく、米国法人から直接購入しなければならない状況は相変わらずで、日本での産業利用は、エンターテインメント業界以外ではあまり進まないと思います。
HoloLensが、新たにベルギーやデンマーク、イタリア、スペインなどEU圏29カ国で発売になり、HoloLensが発売されている国は39カ国になりました。
意外と健闘している!? 日本発の感覚出力用VR周辺機器
VR HMDの開発については富士通の「FMVHDS1」と、Kickstarter発の「FOVE」くらいと、世界的には全く存在感がない日本ですが、VRに感覚を与える周辺機器では実は意外と健闘しています。
海外からも素晴らしいVR感覚デバイスが次々発表されますが、1つ問題があります。「発表されるだけで、実現しないこと」です。試作機は発表時の1台だけで、いくら待ってもそれが使われ続けていて、プロダクトとして具現化するために進歩していく様子がなく、気づいたらいつの間にか消えている……、そんな機器が何十もあるのです。
日本はトピックこそ地味ですが、既にVR触覚グローブである「EXOS」(イクシー)、嗅覚デバイスである「VAQSO VR」(VAQSO)など、われわれ日本人が見て体験することができる複数台の試作機が存在しています。完全にコア技術が高速グラフィックチップ上でのソフトウェア処理であり、光学系はどこでも作れる技術的特異性ゼロのVRヘッドマウントディスプレイでは日本の出る幕はありませんが、物理現象を必要とする感覚出力機器での日本の底力は意外と強いのです。
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