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大脳の回路を解明、単純な回路が繰り返した格子構造で並列処理医療技術ニュース

理化学研究所は、哺乳類の大脳皮質の第5層が単純な機能単位回路の繰り返しからなる六方格子状の構造を持つことを発見した。マイクロカラムが繰り返した回路による並列処理が、幅広い大脳機能を担うことが示された。

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 理化学研究所は2017年11月3日、哺乳類の大脳皮質の第5層が、単純な機能単位回路の繰り返しからなる六方格子状の構造を持つことを発見したと発表した。同研究所 脳科学総合研究センター チームリーダーの細谷俊彦氏らの研究チームによるもので、成果は同年11月2日、米科学誌「Science」電子版に掲載された。

 大脳の神経細胞は厚さ1〜2mm程度の大脳皮質を作っており、さらに6つの層に分かれている。同研究グループは、神経細胞の分類が比較的進んでいる第5層を研究対象とし、マウス脳を用いてその構造を解析してきた。

 第5層は、皮質下投射細胞(SCPNs)と皮質投射細胞(CPNs)という2種類の興奮性細胞と、パルブアルブミン発現細胞(PV細胞)とソマトスタチン発現細胞(SOM細胞)という2種類の抑制性細胞の計4種類の神経細胞で主に構成されている。

 今回、第5層で大部分の神経細胞が細胞タイプ特異的なカラム状の小さなクラスタ(マイクロカラム)を形成していることを発見。大脳皮質の広い領域で、第5層の神経細胞はマイクロカラムが繰り返した回路に組織化されており、個々のマイクロカラムは機能単位として動作すること、多数のマイクロカラムによる並列処理が第5層の情報処理を担っていることが示された。

 この構造はさまざまな皮質領野に存在するため、感覚処理、運動制御、言語処理などの多様な大脳機能に共通な情報処理を行っていると考えられるという。

 今後、単一のマイクロカラムの機能を明らかにできれば、第5層の機能、ひいては脳機能の深い理解が得られる可能性があるという。また、ギャップ結合で結合したカラム状のクラスタは第5層以外にも存在するため、この情報を用いて第5層以外の皮質層でもマイクロカラム様の構造を探索できる可能性があるとしている。

 まず、脳を3次元解析する技術を導入し、第5層で1個体当たり数千〜数万個の細胞の位置座標を決定した。その結果、マウスの大脳皮質第5層では、SCPNマイクロカラムが視覚野、体性感覚野、運動野で共通に見られ、ハニカム状の六方格子配列で並んでいることが明らかになった。また、CPNsもマイクロカラムを形成し、SCPNマイクロカラムと互い違いに並んでいること、PV細胞とSOM細胞はSCPNマイクロカラムに選択的に含まれ、CPNマイクロカラムには含まれないことも明らかになった。

 次に、SCPNsの神経活動を解析したところ、同じマイクロカラムに含まれる細胞は同期した神経活動を示すことが分かった。この同期活動は、視覚野、体性感覚野、運動野のSCPNマイクロカラムで共通に見られた。視覚野においては、マイクロカラム内の細胞は方位選択性や眼優位性が類似していることが分かった。

 さらに電気生理学的な解析から、皮質回路が形成される時期には同じマイクロカラム内の細胞はギャップ結合によって電気的に結合しており、後に共通な神経入力を受けることが示された。

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マウス大脳皮質のマイクロカラムとその格子配列。(A)色素注入により可視化された第5層のSCPNマイクロカラム、(B)SCPNマイクロカラムを上面から見たときのハニカム状の六方格子構造、(C)模式図(クリックで拡大) 出典:理化学研究所
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SCPNマイクロカラムの神経活動解析。(A)マウス生体脳からイメージングを行うイメージ図、(B)カルシウムイオンセンサーを視覚野SCPNsに導入し、神経活動を測定、(C)Bの4個の細胞の神経活動を測定した結果、(D)(E)さまざまな方位の視覚刺激をマウスに提示し、視覚野SCPNsの応答を測定、(F)2つのSCPNsを比べたときの最適刺激方位の違いと細胞間距離の関係、(G)模式図(クリックで拡大) 出典:理化学研究所

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