安川電機は「アイキューブ メカトロニクス」で何を実現し、何を実現しないのか:製造業×IoT キーマンインタビュー(3/4 ページ)
IoT活用によるスマートファクトリーが大きな注目を見せる中、安川電機は2017年10月に一連の取り組みを再編成した「アイキューブ メカトロニクス」を発表した。全世界的に製造現場のスマート化が進む中で、安川電機が目指すものとは何なのだろうか。同社執行役員 CTOで技術部長の善家充彦氏に話を聞いた。
「アイキューブ メカトロニクス」を実現する外部との連携
MONOist 上位システムとの関係性についてはどう考えていますか。
善家氏 基幹システムやクラウドなど、エンタープライズITの領域については、柔軟に接続性を維持できるような関係性を意識している。上位システムはどこが来ても接続できるようにする。ユーザー企業の基幹システムに割り切って対応するという形だ。基本的にはデータを受け取って渡すことができれば問題ないので、API(Application Programming Interface)を用意することで対応できると見ている。
多くの企業が垂直統合型のデータモデルを意識していると思うが、現在の状況は、上位のシステム群を保有している企業は末端の機器群は保有していない。そのため、現場に近いところからどういうデータを吸い上げればよいのか分からない。安川電機は上位のエンタープライズIT領域のサービスは保有していないが、製造現場からどういうデータを取得すればよいのかは分かる。その強みを生かして、柔軟に連携していけばよいと考えている。
MONOist アプリケーションについてはどう考えますか。
善家氏 一般的な見える化やビッグデータ解析機能などは「i3-Controller」に搭載するとしても、顧客の多彩な環境に対応していくためにはそれだけでは不十分である。IoTに関する定番技術はコントローラーにバンドルしてしまい、それ以外の個々の状況への対応についてはアプリのダウンロードで対応していく形としたい。アプリを提供するマーケットプレースなども今後用意する。コアを作って、残りはアプリで最適化していくという仕組みである。システムについては現在提供しているクラウドサービスを拡張する形で実施する。
アプリの開発などについては、サードパーティーとの協業なども進め、オープンイノベーションの発想で早期に充実させていきたい。GUI(グラフィカルユーザーインタフェース)やビッグデータ解析技術などは、安川電機単独で全てのニーズに応えていくのが難しい領域だ。安川電機のコアコンピタンスはメカトロニクスのナレッジの融合や結集だと考えており、それ以外の領域については、積極的に外部との連携を進めていきたい。
MONOist メカトロニクスに関係する以前からの競合と組むという可能性についてはいかがですか。
善家氏 その点についてはあまり考えていない。他のIoTプラットフォームの上位になったり下位になったりはあるかもしれないが、基本的にはセル単位で内部は「i3-Mechatronics」として完結する形を作りたい。その中に競合製品を組み込むというのはできなくはないが、あまりメリットを作り出せないのではないかと考えている。基本的には通信プロトコルなどもマルチプロトコルでつなげる発想なので、連携は可能だ。あとはどういうデータ連携をどういう深度まで行うかという点がポイントになる。深いレベルまで連携する場合は、競合企業がどの程度データ公開をしてくれるのかという点にかかっている。
あくまでもメカトロニクス製品をベース
MONOist 製造業にも「モノ」から「コト」へというサービタイゼーションの動きが広がりを見せていますが、製品と切り離した領域でのビジネス展開などについてはどう考えていますか。
善家氏 欧州では今「どうやってインダストリー4.0に取り組んだらよいのか分からない」とする製造業のため、コンサルテーション事業などを行う企業が増えてきている。しかし、安川電機はコンサルテーションだけをビジネスにするつもりはない。先ほどから述べているように安川電機のコアコンピタンスは現場にひもづくメカトロニクスナレッジの融合と結集にあると考えているからだ。あくまでも製品に立脚したサービスやソリューションを展開していくつもりだ。
「i3-Mechatronics」の3つの「i」の内、「innovative」は製品進化を意味している。まず製品があって、そこにソリューションや新たなサービスを乗せられることが最大の強みである。製造業でありながら「モノ」の強みを生かさない「コト」では、自ら強みを放棄しているようなものだ。「モノ+コト」での展開を進めていく。
現在ここまでスマートファクトリーが大きな注目を集めているのは、従来型の改善活動が限界に来ているからという側面もある。従来型の改善活動には当然、エンタープライズITなども活用されてきたわけだが、その情報だけではこれ以上の効率化などは不可能になりつつある。その中で、IoTなどによりエッジのさらに先のモーターやセンサーなどの情報を取れるようになった。この新たな情報粒度により、従来と数段違う改善活動が実現できるというのが、現在のスマートファクトリーへの関心につながっているのだ。その意味で、エッジのさらに先の領域でのデバイスを数多く保有しているというのは大きな強みになり、差別化につなげられると考えている。
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