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快適さをシミュレーションする、東洋紡の着衣解析の取り組みCAE事例(2/2 ページ)

東洋紡の快適性工学センターでは、衣服の快適性について科学的な側面から取り組んでいる。今回、有限要素法により人体モデルに服を着せて動かした状態の衣服圧をシミュレーションし、導電性材料を利用した心電図を測定できるスマートウェアの開発に成功した。

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動作中の衣服圧分布を計算

 このCOCOMIで、衣服上に心電図計測用のパターンを作る。心電図を安定して取得するためには、静止状態だけでなく、腕を振ったり走ったりしている状態でも電極が離れないようにしなければならない。そこでAbaqusを使用して、動いている人体に衣服が与える圧力の解析を行った。この際には2つの課題があったという。1つは数値解析上でどのように人体を変化させるのか、もう1つは、動いている人体にどうやって衣服を着せるかという問題である。

 まず日本人の平均モデルのマネキンを3Dスキャンして、3D CGソフト「Maya」上で運動するアニメーションを作成した。続いてポリゴンデータを接点と要素データに変換し、Abaqus上で変形剛体のモデル化を行った(図3)。一方衣服については、3次元の型紙をAbaqus上で人体モデルを覆う形で縫合させながら変形させ、着衣状態の解析を行った。(図4)。人体と衣服の間に摩擦を考慮することで、発生する接触状態とすべりの評価方法を構築した。また衣服着用時に発生するしわと、その移動に関する不安定についても克服したという。


図3:Abaqusにおける変形剛体モデル(出典:東洋紡)

図4:人体モデルに衣服を着付け、圧力分布を求める(出典:東洋紡)

 圧力コンターの変化を比較したところ、圧力分布は動くにつれて変化するが、図5の1から8の各点のうち、4、5、6付近では、歩いた時や走った時にも一定以上の圧力をキープしていることが分かった。


図5:わきの下の背中寄りの場所に、常に圧力がかかっていることが分かった(出典:東洋紡)

 そこで、この衣服を再び2次元のパーツに分解し、わきの下、背中寄りの場所に電極を配置してウェアを製作した。このウェアを着て自転車の走行でテストしたところ、図6のように安静状態から運動状態にかけて変化する波形が連続的に確認できた。波と波の間のノイズが高くなると正確な値の算出は難しくなるが、ここではフィルターがなくてもクリアなデータを得られたという。


図6:ウェアを作成し、計測した心電図の波形(出典:東洋紡)

 以上のように、姿勢が変化する人体モデルの着衣解析を実施し、衣服圧分布の変化を定量的に把握することができた。それにより電極の適切な貼り付け位置を推定し、運動時にも精度よく心電図を測定できるウェアの開発に成功した。「現状は単に剛体が動いている状態だが、実際の人体には筋肉の盛り上がりや皮膚の伸びといった要素がある。それらの検討も計算に入れることで、よりよい設計が可能になると考えている」(権氏)。

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