難治性不整脈を再現、ヒトiPS細胞由来の3次元的心臓組織で:医療技術ニュース
京都大学はヒトiPS細胞由来の3次元的心臓組織を作製し、不整脈の一種であるTdPを培養下に再現することに成功した。難治性不整脈の治療法開発や、さまざまな薬の毒性評価に役立つと期待される。
京都大学は2017年10月25日、ヒトiPS細胞由来の3次元的心臓組織を作製し、不整脈の一種であるトルサード・ド・ポアント(TdP)を再現することに成功したと発表した。同大学 iPS細胞研究所 教授の山下潤氏らと滋賀医科大学の研究グループによるもので、成果は同月20日、英科学誌「Nature Communications」で公開された。
TdPは心臓突然死の原因となる不整脈の一種。薬の副作用として現れることがあり、開発の早い段階で薬の毒性を評価できるヒトの心臓のモデルが求められていた。これまではiPS細胞から心筋の細胞を誘導して利用する研究が行われてきたが、単一の細胞では、QT延長(活動電位持続時間の延長)は再現できたが、TdPの発生を再現することはできなかった。
TdPなどの重篤な心室性不整脈を起こしやすい心筋症や心筋梗塞後の患者の心臓では、健康な人に比べて線維組織が多いことが知られている。研究グループでは、ヒトiPS細胞由来の間葉系細胞と心筋細胞を混ぜてシート状にし、2種類の細胞が混ざり合いながら5〜6細胞層になっている3次元的心臓組織を作製した。
この3次元的心臓組織に試薬を与え、細胞外電位を測定した結果、100nM(ナノモーラー)までは、濃度に比例してTdPが起こる前段階のQT延長に相当する現象が認められた。100nM以上の濃度では、TdPに特徴的な多形性の頻脈波形が得られた。また、試薬を与えた後の細胞の動きを詳細に観察したところ、TdPで起こると考えられていた興奮波の旋回が実際に起こり、その中心が不規則に移動していることが確認できた。
TdPの発生については、異なる細胞株や試薬でも再現できたが、純粋な心筋細胞だけでは3次元的な構造を作ってもTdPは発生しなかった。混合培養でも2次元培養よりも3次元的心臓組織の方がTdPが発生する確率が高く、興奮旋回の中心が動き回れる3次元的環境を作ることで、TdPが長く維持できると考えられるという。
TdPを再現するモデルを構築し、それを解析することに成功したことで、TdPのより詳細なメカニズムの解明や難治性不整脈の治療法開発、さまざまな薬の毒性評価に役立つと期待される。
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