秒速1000回転の細菌べん毛モーター、回転方向を制御するタンパク質の構造を解明:医療技術ニュース
名古屋大学は、核磁気共鳴法(NMR)と分子動力学計算法を用いて、細菌が持つ運動器官「べん毛モーター」を構成するタンパク質「FliG分子」の構造動態を解明した。
名古屋大学は2017年9月22日、核磁気共鳴法(NMR)と分子動力学計算法を用いて、細菌が持つ運動器官「べん毛モーター」を構成するタンパク質「FliG分子」の構造動態を解明したと発表した。FliGが複数の構造間を揺らぐことでべん毛モーターの回転方向変換を制御し、前進/後退を決定するために重要な役割を担っていることが分かった。
細菌のべん毛モーターは、50nm以下と小さいながら秒速200〜1000回転以上の速さで回転する生体ナノマシンとして注目される。同研究で明らかになったFliGcのダイナミックな構造変換が、高いエネルギー変換効率でモーターの回転方向を変換するためにも重要であることが予想される。この知見をもとに生物特有の回転方向制御機構が解明されれば、人工的にナノマシンを設計して自在に分子モーターを制御できるようになり、医療や人工生命設計など、さまざまな分野への応用が期待される。
FliGは、N末端ドメイン/中間ドメイン/C末端ドメインから構成される。同研究では、遺伝子組み換え技術により、海洋性ビブリオ菌に由来するタンパク質のC末端ドメイン(FliGc)とべん毛モーターの回転方向に異常を来すアミノ酸変異体を調製。NMRと分子動力学計算法を用いてそれらの構造情報を比較し、回転方向の変換制御を調査した。
その結果、野生型FliGcは主に3つのコンフォメーションを形成し、それらの構造間を行き来する(揺らいでいる)ことが分かった。一方、べん毛の回転方向変換に異常を示す変異型FliGc(FliGc-A282T)では、複数のコンフォメーションは見られなかった。
FliGcには、3つのαヘリックスからなるC1ドメインと、6つのαヘリックスで構成されるC2ドメインが存在する。C2ドメインの1番目のヘリックス(α1ヘリックス)は、C1ドメインとC2ドメインをつなぐ“ちょうつがい”として働く。これがFliGcの構造に複数の表情を生み出していることから、べん毛モーターの回転方向の変換に関わっていることが明らかとなった。
同研究は、同大学大学院 理学研究科付属構造生物学研究センター 教授の本間道夫氏らと、長浜バイオ大学バイオサイエンス学部 教授の白井剛氏、横浜国立大学大学院工学研究院 教授の児嶋長次郎氏らの共同研究グループによるもの。成果は同月14日に米科学誌「Structure」電子版で公開された。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 心臓での抗がん剤の副作用を再現、微細加工技術応用のマイクロ流体デバイスで
京都大学は、微細加工技術を駆使した生体外ヒトモデル「Body on a Chip」の開発に成功した。患者や健常者、実験動物などに頼ることなく、薬の効能・効果や毒性を評価できる。 - 微細加工技術を医療に生かす、アルプス電気のマイクロ流路
アルプス電気は「MEDTEC Japan 2014」で、マイクロ流路などを医療向けに提案した。微細加工が必要なもので、同社が電子部品で培ってきた金型微細加工技術を、医療分野にも応用したい考えだ。 - 脳梗塞領域に血管を誘引する人工細胞足場、脳の修復や再生に寄与
東京医科歯科大学は、脳梗塞領域に血管を誘引するスポンジ形状の人工細胞足場を開発した。一度損傷を受けると再生しないとされていた脳の修復/再生に寄与する成果で、再生医療への展開が期待される。 - がん組織周辺で抗がん剤を合成・放出する糖鎖高分子ベシクルを開発
京都大学は、物質透過性を持つ糖鎖高分子ベシクルを開発した。がん組織周囲で抗がん剤を合成し、放出する医療ナノデバイス(ナノファクトリー)として機能する、初めての材料となる。 - 人工生体ナノマシン設計につながるべん毛モーターのタンパク質構造を解明
名古屋大学は、細菌が持つ運動器官べん毛モーターを構成するタンパク質の1つ、MotA分子の立体構造を解明したと発表した。将来的に人工生体ナノマシンの設計や医療・機械工学分野などへの応用が期待される成果だという。