世界初の力触覚制御を実現した双腕ロボット、「固くて柔らかい」矛盾を解決:ロボット開発ニュース(3/3 ページ)
NEDOと慶應義塾大学は、身体感覚を伝送可能な双腕型ロボット「General Purpose Arm」の開発に成功した。「世界初」とする力触覚に応じた制御により、力加減を調節し多様な作業を柔軟に行えることが最大の特徴。「固くて柔らかい」という矛盾した制御が必要な力触覚はどのように実現されたのか。
腐ったミカンを取り除く選果ロボットに採用
General Purpose Armの応用は以下のような例が検討されている。
- 放射線環境や高所、深海中といった人間が直接立ち入ることのできない極限環境/危険環境下での作業を遠隔で行い、安全かつ確実な作業が可能になる
- 多品種少量生産や軟弱なものを取り扱う生産ラインにおいては、作業の自動化が困難とされており依然として人間の手作業に頼っている。General Purpose Armにより、器用で繊細な作業を自動化することが可能になり、大幅な生産性の向上が期待される
- エンターテインメントの世界では、遠隔で楽器を奏でることが可能になる。また、あたかも現地に行ったように旅行を体験することが可能になる。介護/福祉の世界では、高齢で歩行が困難な状況でも、外出やお花見、買い物の体験を楽しむことも夢ではなくなる
高精度力触覚技術については、複雑な加速度規範双方向制御方式に基づくアルゴリズムを誰でも使いやすくするためASIC「ABC-CORE」として提供も始めた。スピンアウトベンチャーのMOTION LIBが販売している。
また、産業機器、ロボット、自動車、建設機械、農業、測定機器、医療、介護、健康機器、航空宇宙分野など約30社の企業と高精度力触覚技術を用いた共同研究も進めている。先行して発表されたシブヤ精機の選果ロボットは、腐敗した果物をラインから取り除くためのものだ。従来は、対象になる果物を吸着して取り除いていたが、腐敗部だけを吸い取ったり、腐敗した液体が吸着機構につまるなどの課題があった。高精度力触覚技術の活用によって、さまざまな状態が想定される腐敗した果物を的確につかんで取り除くことができるという。
この選果ロボットをはじめ、多数の高精度力触覚技術の共同研究成果がCEATEC JAPAN 2017で披露される予定だ。
なお、General Purpose Armは、NEDOが政府の「ロボット新戦略」を受けて2015年度から推進している「次世代人工知能・ロボット中核技術開発(SamuRAIプロジェクト)」の先導研究の1つとして研究開発が進められてきた。2015年度にスタートしたSamuRAIプロジェクトは、AI(人工知能)技術の研究開発は産業技術総合研究所内の人工知能研究センター(AIRC)に結集して進める一方で、ロボットの研究開発はさまざまな拠点で分かれて実施している。将来的には、SamuRAIプロジェクトのAIとロボットによって社会課題を解決していく方針である。
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