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試作材料選びがサクッとできる標準化で無駄をなくそうママさん設計者とやさしく学ぶ「機械材料の基本と試作」(6)(1/3 ページ)

ママさん設計者と一緒に、設計実務でよく用いられる機械材料の基本と、試作の際に押さえておきたい選定ポイントと注意点を学んでいきましょう。最終回は、試作における材料選びの標準化について考えていきます。

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 皆さん、こんにちは! Material工房・テクノフレキスの藤崎です。前回までは、実務初心者が材料選定に直面した時に「私はこういう理由でこの材料を選びました」という根拠を明確にすること、できるようになることを目指して、各材料の要点を身近なモノや事象になぞらえてイメージとしてつかめるようにお話を進めてまいりました。鉄やアルミを筆頭とした金属材料からはじまり、「ポリ」や「塩ビ」の通称で私たちの生活にも欠かせないプラスチック材料、それから今後の進化が楽しみな3Dプリンタ用材料と、個別の記事の中でそれぞれの選定のポイントは押さえてきました。

 最終回の今回は、まとめのつもりで「試作における材料選びの標準化」について考えてみます。これが、連載第3回の中でさりげなく述べた「試作に関わる人それぞれが、てんでバラバラに目安を持っていると調達にムダや遅れが発生します。そういうつまらないトラブルを防ぐためにやっておきたいこと」になります。なお、今回は、私自身が試作業務で接することが多い、金属材料を中心とした説明になります。

「○○さんが勝手にやった」ってならないために

 お客さま相手のモノづくりで守らねばならないこととして「納期」「品質」「コスト」の3つが挙げられます。この3つはもう、「鉄のおきて」みたいなもんですよね。とりわけ試作という作業は、言うまでもなく量産を前提とした機能の作り込みを目的にしていますので、当然この3つのおきてを目標に定めつつ、それを達成するために同一部品に対して材料を変えての試行が繰り返されます。従って、試作における材料の選定作業を突き詰めると、これは数多くの機械材料の中から3つのおきてを満足できる材料を選び出すという、なんとも苦しい作業になります。

 そんなさなか、チームの先輩から「これは試作だから材料は何でもいいよ」といわれることがあるかもしれません。でもこの「何でもいいよ」の意味は、「設計意図に条件が合う材料なら何でもいいよ」ということです。

 例として、設計者が図面の材質欄に「A6063」を指示してあったとします。A6063は押出用のアルミ合金なので、量産時には専用のダイスをオーダーして押出材の部品を作るものと認識できます。しかしA6063の、機械加工用としての板材や丸棒の流通在庫を見かけることはありません。いや、ひょっとしたら一生懸命探せば見つかるのかもしれませんが、それを愚直に検索する時間と労力もコストとして考慮しなくてはいけません。

 この時、設計者がわざわざ図面でアルミニウム合金の品種を指示しているのに、入手困難を理由に何でもいいからと鉄鋼材料やプラスチック材料を調達するのは論外ですが、「試作段階では、アルミニウム合金であれば何でもいいのだ」と判断して、通常見かけない材料を調達しやすい品種に置き換えて、汎用材のA5052を“スっと”あてがうことはあって然るべきです。

 ただ、この機転を「○○さんが勝手にやった」とおとがめを受けたら面白くありませんよね。かといって、上司にお伺いを立てて許可をもらうまで行動できないのは時間のムダで、もっと面白くありません。

 ですから試作における材料選定の手順を、チーム全体のお約束として定めておく必要があるのです。各自が、最低でも汎用材の基本知識を身に付けて「その場に適した材料をサクッと選定する方法」を共有することで、ムダのないスピーディーな材料調達ができるようになります。それが「材料選定手順の標準化」です。これは別に複雑なお話ではなく、「仕事が入ったら直ちに材料選定ができるように、あらかじめチーム内で申し合わせておけることはできる限り明文化して、全員で運用しましょう」ということです。

材料の標準化のやり方

 「じゃあ、具体的にどうするの?」というお話になりますが、基本的な考え方は、家庭の常備食材のごとく、もうただ単純に「使用目的別に、基本の材料を決めておく」のです。

 お料理に例えると分かりやすいかなと思うので、一般的なカレーライスを例にとってお話しますと、「カレーライスを作るのに必要な材料は?」と聞かれたら、ほとんどの人が「人参、じゃがいも、玉ねぎ、豚肉そしてカレールー」と答えると思います。それは、カレーライスにはこの材料を使うことがとっくに標準化されていて、食生活を通して皆さんの頭にインプットされているからです。

 これとまったく同じく、試作用の材料だってあらかじめ基本の品種を決めておけば、選定にかかる時間はほぼゼロで済み、さっさと次のプロセスに進めるのです。

 ただし、連載第4回にあるハンバーグ作りの件を思い出してください。その中で「牛豚のひき肉が手に入らなかった場合、特段の理由がなければ鶏ひき肉でも目的は達成できるからヨシとしましょう」と書きました。つまり、標準化は原則として捉えておき、「常用と定めていた材料がなんらかの情勢で一時的に流通が止まってしまった」といった不測の事態に遭遇したら、状況に応じて臨機応変な対応ができることが望ましいです。

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