太陽光電池の搭載面積が3分の2に、厳しいレギュレーションをどう乗り越える?:モータースポーツ
東海大学は「2017 ブリヂストン ワールドソーラーチャレンジ」(2017年10月8〜15日、オーストラリア)の参戦車両を披露した。前回までの車両からボディー形状を大きく変更して空力性能を高め、優勝を狙う。
東海大学は2017年8月29日、同大学 湘南キャンパス(神奈川県平塚市)で会見を開き、「2017 ブリヂストン ワールドソーラーチャレンジ」(2017年10月8〜15日、オーストラリア)の参戦車両を披露した。
同大会はソーラーカーでオーストラリア北部のダーウィンから南部のアデレードまでの約3000kmの走行時間を競うレースで、隔年で開催されている。東海大学は2009年と2011年で2連覇し、2013位は2位、2015年は3位に入賞している。
2017年はレギュレーションで太陽電池セルの搭載面積が減少するため、空力性能がより重視されることになる。東海大学は前回までの車両からボディー形状を大きく変更して優勝を狙う。
ボートのようなモノハル(単胴)型に
2017年の参戦車両は、前回までの参戦車両とは異なる「モノハル(単胴)型」を採用し、空気抵抗を従来比で3割低減した。2011〜2013年の参戦車両は「カタマラン(双胴)型というボディー形状で、ドライバーが片側に座り、空いた面に太陽電池セルを広く配置するデザインだった。
2017年のレギュレーションでは太陽電池セルの搭載面積がシリコン系で6m2から4m2に縮小されており、搭載面積を広く取りやすいカタマラン型の車両を続投するメリットが少なくなった。モノハル型とカタマラン型の両方のデザイン案を検討した上でモノハル型を選択した。
モノハル型は、左右のタイヤの間隔(トレッド幅)を広くとれるカタマラン型と比較してコーナリング性能が劣るが、重心を下げることでカバーする。今回の参戦車両のトレッド幅は610mmだ。横風の影響も受けにくい形状とした。
東海大学チーム 総監督の木村英樹氏は「企業とも共同開発する中で、一番わがままを言ったのは空力。空気抵抗を下げないことを第一に、太陽電池セルを配置したり、内部の構造に工夫したりした」と述べた。
太陽電池の表面から電極をなくす
太陽電池の搭載面積縮小は、単純に考えれば発電量の減少につながり、空気抵抗の改善や軽量化が従来よりも重要になる。東海大学は複数の企業の協力の下、さまざまな最新技術を盛り込んだ。「これまでと変わらない走行速度を維持する」(木村氏)という目標で車両を開発した。
2011年から継続してボディーの炭素繊維を提供する東レや、大会スポンサーで参加チームに低転がり抵抗タイヤを供給するブリヂストン(※1)など、主要部品は全て日系企業から供給を受けた。
(※1)ソーラーカー用タイヤは95mmの狭幅、転がり抵抗は「プリウス」の10分の1に
また、東海大学に例年、太陽電池セルを供給するパナソニックは、太陽電池の搭載面積に関するレギュレーションに対抗すべく、従来以上の電力変換効率を実現した。前回までの参戦車両には、シリコン基板の両面にアモルファスシリコン膜を設けて電荷の消失を低減する「ヘテロ接合技術」を提供してきた。これは、住宅用太陽光電池で実績のある技術だ。
今回はさらに効率を向上するためにヘテロ接合技術に加えて、電極を全て裏側に配置する「バックコンタクト技術」を採用。電極が影になることなく、全面が受光部となることで、変換効率は従来の実績の23.2%を上回る24.1%を達成した。モジュールの公称出力は962Wとしている。
「電極は線のような細さだが、それをもなくすことでさらに変換効率を上げようとする試み」(パナソニック)となり、まだ量産実績のない開発中の技術だが、住宅用や量産車向けでの採用の可能性もあるという。
太陽電池モジュールには常に均等に日光が当たる訳ではなく、コックピットやドライバーの影やボディーの曲面の角度によって、出力が影響を受ける。そのため、MPPT(最大電力点追従回路)とPVバランサーによって、弱いセルの出力も有効に活用できるようにする。
レギュレーション変更を受けて、ライバルチームはそれぞれ異なるタイプのボディー形状や太陽電池セルを採用する計画で、「考え方の異なる車両が同時に戦う異種格闘技になる」(木村氏)。日本からは、工学院大学(※2)の他、名古屋工業大学や呉港高等学校が参戦する。東海大学は2011年以来の優勝を獲得できるか、注目が集まる。
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