「標準時間」はなぜ必要なのか:よくわかる「標準時間」のはなし(2)(1/4 ページ)
日々の作業管理を行う際の重要なよりどころとなる「標準時間(ST;Standard Time)」を解説する本連載。第2回では、そもそも「標準時間」がなぜ必要なのかについて説明する。
連載第1回でも述べましたが、昨今の製造企業のコンサルティングの仕事を通じて現場関係者に感じるのは、「標準時間(ST;Standard Time)」に対する関心が徐々に希薄になっているのではないかということです。仕事のために時間の概念を忘れてしまって、適切な現場管理ができるのでしょうか? 作業の所要時間を無視して生産のスケジューリングが可能でしょうか? 作業時間の把握なくして、作業者の教育訓練や作業改善が進められるのでしょうか? ぜひ、このシリーズの学習を機会に、高い水準の「現場管理」を取り戻してもらいたいと願っています。
1.作業量の測定には欠かせない標準時間
早速ですが、以下のような事例を考えてみてください。組立工場の出来高と鋳造工場の生産性をどのように比較すれば良いのでしょうか? 簡単なようで、案外と間違えやすい問題です。
[事例1]
ある組立工場のA課は、製品aを100人で生産し、毎月1億円の売上高を上げています。一方、B課は、製品bを100人で生産し、毎月2億円の売上高を上げています。
さて、A課とB課では、どちらの課の作業者の働きぶりが良いといえるのでしょうか?
[事例2]
ある鋳物工場では、製品cを3年前には毎月1000トン鋳込んでいましたが、今年は毎月2000トンを鋳込みました。
さて、3年前と今年とでは、作業者の働きぶりは2倍になったといえるのでしょうか?
上記の[事例1]は、例えばB課の製品bは購入品の割合が非常に多ければ、作業量は少ないけど売上高は大きくなることも考えられます。従って、B課の売上高が高いからといって、A課の作業者よりもB課の作業者の方が必ずしも働きぶり良いとはいえません。すなわち、売上高という測定単位では、作業者の働きぶりは評価できないということです。また、[事例2]では、鋳物の軽量化が進んで、生産高2倍以上になっていかも知れません。
売上高やトン数といった単位での測定では、作業者の働きぶりは比較することができないということは明らかです。仕事の出来高を部門間や、[事例2]のように時間的経過にも一貫性を欠くことなく正確に測定していくためには、適切な測定単位の設定が必要で、同じ単位で測定されなければ、それらの間の比較はできないことになります。
一般的に仕事量を表現する単位としては、“単位時間当たりの出来高個数”、“単位時間当たりの長さ、容積など”、“単位仕事当たりの時間”などが考えられます。
ちなみに、経営者は、よく売上高や利益(率)を経営成果の測定単位に使用する場合が多くあります。これは、経営者の最大の関心事は売上高や利益(率)であることから、事業成果の測定単位として売上高や利益(率)が最も適しているからです。売上高や利益は事業の結果であって、これらをさらに向上させるためには、問題把握に適切な指標を選択しなければなりません。従って、私たちが現場で出来高を測定する単位としては、売上高や利益(率)は適切ではありません。その理由は、売上高と作業者の行った仕事量との間には、一貫性のある関係が認められないからです。
このように考えてみれば、作業量の測定単位としては“時間”が最も確かであることが理解できます。“時間”を作業量の測定単位とすることで、他社や他産業との生産性などの比較が容易に可能となります。一般に、“時間”が作業測定の単位として利用されているのはこのためです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.