加工用レーザーパワーの揺らぎを0.1%以下に抑制するシステム:FAニュース
産業技術総合研究所は、加工用レーザーのパワー制御システムを開発した。対向する2個のプリズムからなる素子を使って光の反射量を精密に調整することで、高出力レーザーのパワーを高い精度で制御する。
産業技術総合研究所(産総研)は2017年6月14日、対向する2個のプリズムからなる素子を使って光の反射量を調整し、加工用レーザーのパワーを高い精度で制御するシステムを開発したと発表した。2kW/cm2のレーザーを制御してパワーの揺らぎを0.1%以下に抑制し、レーザー出力を安定化できることを実証した。
プリズム底面に別のプリズムを近づけると、エバネッセント光(プリズム底面の数百nm外側に侵出し、再び内部に戻る反射光)の一部を、近づけたプリズムへと抽出できる。この際、反射光となる光のパワーは抽出された分だけ減少する。抽出光の量は2つのプリズム間の距離により異なるため、この距離を変えることで反射光のパワーを制御できる。
この原理は以前から知られていたが、今回、システムの出射口にパワーモニターを設置し、その測定値が目標値と一致するように2つのプリズム間の距離を制御することに成功。透明度の高いプリズムを用いるため、光の吸収に伴う発熱も抑制できた。
同システムを用いて、波長が1.1μmで2kW/cm2という高出力加工用レーザーのパワー制御の実証実験を行った。その結果、制御後の変動を0.1%以下に抑制でき、レーザーパワーを安定化させることに成功した。また、300〜420秒付近の連続的なパワー変動に対しても、制御後は一定値を維持できることを確認し、高出力レーザーパワーであっても制御可能なことを実証した。
産総研は今回開発したシステムを基に、応答特性の改善を進めるという。また、同システムの小型化を進め、レーザーパワーを高精度に制御するシステムの実用化を目指すとともに、ビーム形状制御技術の開発にも取り組むとしている。
高出力レーザーは、切断や切削などの機械加工が難しい材料の切断や、自動車の溶接などへの利用が拡大している。しかし、作業環境の温度変化などによってレーザーのパワーが揺らぎ、加工の精度や歩留まりに影響することが問題となっていた。
関連記事
- 次世代光源のレーザーは「全ての項目でLED上回る」
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、大阪大学、島津製作所は、3原色の可視光半導体レーザーを用いた光源モジュールの開発成果を発表。ヘッドマウントディスプレイやプロジェクタ、照明、自動車用ヘッドランプなどの製品に搭載し、「ほぼ全ての項目でLEDに対する可視光半導体レーザーの優位が明らかになった」という。 - 高反射材の切断に適したDDL採用のレーザー加工機
ヤマザキマザックは、DDLを採用した新型レーザー加工機「OPTIPLEX 3015 DDL」の国内販売を開始する。加工速度や省エネ性を向上させて、加工の品質向上や高効率化を図った。 - 三菱電機が第4次産業革命で変えること、変えないこと
IoTがもたらす革新は、製造業にどういう影響をもたらすのだろうか。FA大手の三菱電機は、IoTによる製造現場の革新に危機感を持って立ち向かう。三菱電機 執行役員で、FAシステム事業本部 e-F@ctory戦略プロジェクトグループ プロジェクトマネージャーの山本雅之氏に話を聞いた。 - ファナックがIoT基盤の壮大な実演、JIMTOFで80社250台の工作機械を見える化
ファナックは「JIMTOF2016」において、同社が展開する工場用IoT基盤「FIELD system」の壮大な実演を行った。同システムによりJIMTOFに出展した機械メーカー80社、250台の工作機械をつなぎ、稼働状況の見える化を実現した。 - アップルVSサムスン訴訟を終わらせた日本の工作機械の力
知財専門家がアップルとサムスン電子のスマートフォンに関する知財訴訟の内容を振り返り「争う根幹に何があったのか」を探る本連載。最終回となる今回は、最終的な訴訟取り下げの遠因となった「新興国への技術移転」の問題と「なぜ米国で訴訟取り下げを行わなかったのか」という点について解説します。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.