新たな時代を担う組込みシステムの技術者に求められるものとは:組込み適塾 塾長 井上克郎×SEC所長松本隆明(前編):IPA/SEC所長対談(3/3 ページ)
情報処理推進機構のソフトウェア高信頼化センター(IPA/SEC)所長を務める松本隆明氏が、ソフトウェア分野のキーパーソンと対談する「SEC journal」の「所長対談」。今回は、組込みシステム産業振興機構(ESIP)が推進する「組込み適塾」の塾長で、大阪大学大学院教授の井上克郎氏に、人材育成と組込み技術の未来についての考えを聞いた。
分野をまたがった交流ができる
松本 実践的なスキルはなかなか大学では教育できないため企業内教育もやらなければなりませんが、企業内ではその業務に依存することになり、体系的な教育ができないという課題もあります。体系的な教育を受ける機会はそもそも少ないですね。
井上 大企業は社内で体系立てて教育ができるのかもしれませんが、ESIPに参画していただいている関西の中小企業ではなかなかできません。
松本 そんな中で、システムズエンジニアリングやビジネスデザインなどの能力は、どのように身に付いていくのでしょうか? 座学だけではなかなか難しいと思います。
井上 最終的には、OJTが必要となります。ただし、OJTだけに頼るなら私共の組込み適塾の活動にあまり意味がなくなってしまいます。適塾では基本的に、現場ビジネスに必要なケーススタディをお教えするという立場。もちろん実体験はできないので、その一歩手前の演習にたくさん取り組んでいただきます。
考え方としては、100%は難しくても、80%くらいの経験ができるということです。受講された方には自信を持っていただいて良いと思います。
松本 現場では派生開発や差分開発が多くなり、全体のアーキテクチャから設計する機会はなかなかありません。正にそういった技術をどう身に付けるのか、企業として問題視しているという声をよく聞きます。
井上 そういう方にこそ、様々なケースを勉強していただきたいです。フルに開発した経験がなくても、様々な知識を持つことは大切です。例えば、アーキテクチャを設計したことがなくても、様々なオープンソースなどを使ってシステムが構築されているという全体像が理解できます。実際の現場ではないので製品に直接つながることはありませんが、環境は整っていますから、勉強する気になればいくらでもできるということです。
また、仲間がいることも大きな魅力ではないでしょうか。社内や講座の受講生などと一緒に切磋琢磨して勉強していき、擬似的な体験ができる良い機会としてもらえればと思っています。
松本 「切磋琢磨の場がある」ということは重要だと思います。企業ではそのような機会は減ってきています。お互いに技術を磨きたくてもそうした場がなかなかないという人にはありがたいでしょうね。
井上 受講生同士で刺激し合える環境があります。もし会社で孤軍奮闘していたとしても、外の世界で同じような人がいることが分かります。刺激になり、もっと勉強しようという気持ちになれるようです。横のつながりというのは大事なのだと感じさせられます。
松本 様々な企業と交流できることは貴重ですね。組込み技術の場合は、車載器や電化製品など、特定の分野に特化してしまう傾向があると思います。その結果、技術や知識の範囲が狭くなってしまいます。横のつながりができ、様々な分野の人と情報交換することで、「こちらの分野で組込みはこのような仕組みなんだ」と分かることは大きな意味があるのでしょう。
井上 そうですね。本当に様々な企業の方が来てくださいます。新幹線、はかり、自動車など……。そのような人たちが一緒に勉強するのは、お互いの刺激になります。
(次回後編に続く)
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