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新たな時代を担う組込みシステムの技術者に求められるものとは:組込み適塾 塾長 井上克郎×SEC所長松本隆明(前編)IPA/SEC所長対談(2/3 ページ)

情報処理推進機構のソフトウェア高信頼化センター(IPA/SEC)所長を務める松本隆明氏が、ソフトウェア分野のキーパーソンと対談する「SEC journal」の「所長対談」。今回は、組込みシステム産業振興機構(ESIP)が推進する「組込み適塾」の塾長で、大阪大学大学院教授の井上克郎氏に、人材育成と組込み技術の未来についての考えを聞いた。

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スタート直後のリーマンショックを乗り越え、遠隔地での開催まで発展

松本隆明
松本 隆明(まつもと たかあき)1978年東京工業大学大学院修士課程修了。同年日本電信電話公社(現NTT)に入社、オペレーティング・システムの研究開発、大規模公共システムへの導入SE、キャリア共通調達仕様の開発・標準化、情報セキュリティ技術の研究開発に従事。2002年に株式会社NTTデータに移り、2003年より技術開発本部本部長。2007年NTTデータ先端技術株式会社常務取締役。2012年7月より独立行政法人情報処理推進機構(IPA)技術本部ソフトウェア高信頼化センター(SEC)所長。博士(工学)。

松本 今期で9回目とのことですが、それだけ長い期間継続されてきて、ご苦労もあったのではないですか。

井上 組込み適塾は2008年からスタートしましたが、同年にいきなりのリーマンショックが起こり、経済の悪化から受講生は計画通りには集まらず、会員の企業様にお願いして参画いただくなど、波乱含みのスタートでした。

 また、毎回改良を重ねていくことは非常に大きなエネルギーが要ります。誤解を恐れずに言うと、大学は改良を重視していないようなところがありますが、企業は大変に熱心です。「良いものを作らなあかん」と、新しい講座を企画したり、新しい先生にお願いしたり、スケジュールを改良するなど、事務局は本当に大変でなかなか落ち着くことはありません。

 最近は遠隔地でも受講できる制度を整え、東日本大震災の復興支援も兼ねて東北で実施しました。テレビ会議で実施するので、場所を借りたり、機器のセットアップなどもなかなか手間がかかります。うまくいくか不安もたくさんありましたが、結果は上々でした。東北で受講した人達もしっかりと勉強をしてくださり、遠隔地の不安をある程度払拭できたと思っています。全受講生の中から選ばれる優秀学生に、遠隔受講者が選ばれた年もありました。

松本 一度修了した方がまた別のコースを受講するというケースもありますか?

井上 そこは私たちも期待しているところではあります。初級を受けた翌年以降に中級、上級を受講するというケースです。少しずつそういう人も増えてきていましたが、まださほど大きな流れにはなっていません。

 卒業生同士の横のつながりも大切だと考えており、同窓会などの機会も積極的に提供するようにしています。ただ、受講生が自律的に同窓会をやり出すまでには至っていないですね。

松本 修了した人は即戦力でしょうから、企業はなかなか業務以外の活動に参加させられないという実状があるのでしょうか。

井上 適塾の卒業生が今度は企業の中で講師になっているという話をよく聞きます。組込み適塾で使用したテキストと同じものを使い、同じ内容をレクチャーするようです。

IoTの台頭で、組込み技術者にも包括的な知識が必要

松本 今、IoTやセキュリティの講座もあるとお伺いしました。組込み技術を取り巻く環境は大きく変わりつつあると思います。データを中心に考える必要があると思いますが、求められるスキルや、その方向性は変わりつつありますか?

井上 部会では、みなさん熱心に議論なさっています。取り巻く環境はすさまじいスピードで変化しています。単に「マイコンの話をすれば済む」という時代は終わりました。IoTで様々なものにつながるわけですから、先を見て知識を吸収していかなければ一流の技術者にはなれないでしょう。ネットワーク、セキュリティ、ビジネス、AI、ビッグデータ……挙げればキリがないですが、本当に様々なことを押さえておく必要があるのです。

 ただし、朗報があるとすれば、部品化が進んでいるということです。ソフトウェアなどもオープンソース化が進み、パッケージを利用すれば細かい開発をしなくてもよくなりました。ある意味で、細かい技術なら切り捨てられる、という場面も出てきています。それらを加味して、広い視野で全体のバランスを見据えることが求められるでしょう。ある部分はしっかり技術を身に付け、パッケージで済むところは利用する。適宜判断してうまく切り分けられる技術者になって欲しいと思っています。

松本 ハードウェアやアーキテクチャなどもある程度分からなければなりませんね。そう考えると、組込み技術者のスキルレベルは、今最も高い次元で求められていると言えるのかもしれません。エンタープライズ系であれば、ハードウェアやネットワークの話はある程度仮想化できており、アプリケーションレベルの話がほとんどです。ところが組込み技術者はそこまで自分たちで開発していかなくてはいけないわけですね。

井上 そうですね。マイコンの1ビットにかかわる細かな部分から、ネットワークにつながったビジネスモデルのことまで広範囲にわたるため、学ぶのは大変だろうと思います。すべてを網羅するのは確かに大変ではありますが、組込み適塾で用意している様々なカリキュラムを自分の好みで受講していただければ、近づけるのではないかと考えています。そのために、必要なものを適宜選べる環境を用意しています。

 組込み適塾のカリキュラムは、受講生が分かりやすいようにコース・科目を設定しています。「こちらのコースに沿って学べばIoTに強くなれる」「こちらのコースならビジネスに……」という設計です。

松本 講座ごとに、受講生が多い、少ないといった人気の違いはありますか?

井上 ベーシックなものの人気が高いようです。アーキテクチャ設計コースの中の「ベース科目」では、ソフトウェア開発のV字モデルに沿って、開発工程をすべて網羅できます。体系的に学べるため受講生が多く、人気があります。中でも、設計コースと実装コースの共通講座であるリバースモデリングは特に人気が高いようで。差分開発を対象にしたもので、最近の開発によく利用されています。現場のニーズに即したものはやはり人気です。

松本 基本的な内容を学べる講座の人気が高いのでしょうか?

井上 その傾向はあると思います。上級者向けのアドバンストコースで、「流行りだから受講生が多いのではないか」と思った講座にそれほど人が集まらない……ということもありました。人気を先読みすることは難しく、蓋を開けてから驚くことがままあります。

松本 基本の技術を身に付けていないと、アーキテクチャやビジネスデザインはなかなかできないのでしょうね。

井上 ベーシックな知識を身に付けてから、高度な範囲に首を突っ込むようにしていただきたいとは思っています。基本的な部分が身に付いていないうちに上級レベルだけをかじっても、学ぶものは少ないでしょう。ソフトウェアだけでも、ハードウェアだけでも足りないのです。システムとして考え、発想できるように育っていただきたいと考えています。本来は2〜3年かけて受講していただければ理想的なのですが、残念ながら優秀な人をそれほど外に出してはおけないというのが中小企業の実状でもあります。

松本 コースとしては、1年で修了するのですか?

井上 例年、6月頃からスタートし、10月末に終わるというスケジュールです。期間はだいたい、4〜5カ月となります。以前は1〜1.5カ月間毎日みっちりとやっていましたが、その間実務がストップしていました。現在は科目単位で間隔を取り、実務とバランスが取れるようにしました。

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