日本のモノづくりを活かすIoTの活用方法:トヨタ生産方式で考えるIoT活用(8)(3/4 ページ)
日本型モノづくりの象徴ともいうべき「トヨタ生産方式」。本連載では多くの製造業が取り入れるトヨタ生産方式の利点を生かしつつ、IoTを活用してモノづくりを強化するポイントについて解説していきます。最終回の第8回は、これまでのまとめとして『日本のモノづくりを活かすIoTの活用方法』について説明します。
3.製造現場の課題を解決するIoT活用のポイント
IoTによる最新技術を取り入れた人に優しい道具の活用によって、製造現場の課題を解決していくことが可能となります。
しかしながら、各業務の課題を解決するためには、まずIoTを活用できる共通インフラを構築することが必要です。
共通インフラとしては次の考慮が必要です。
- 機器
設備を制御しているPLCや外付けセンサーで収集する情報の洗い出しと仕掛けが必要です。生産技術部門、IT部門、製造部門で欲しい情報が正しく収集できるか検討が必要です。 - ネットワーク
工場内の機器から情報収集する際には有線、無線だけでなく、有線であればEtherCATやCC-Linkといった接続方法や通信規格の選定が必要となります。
無線の場合も通信する帯域の選定が必要となります。
この部分を適当に決めていると、工場や工程の新設の都度新しいことに取り組むため、安定するまでに手間と費用がかかります。既存の工場や工程では機器が既にあるため、選定の幅が限られたり工程ごとに接続方法が異なったりするのはある程度やむを得ませんが、収集したい情報項目や精度はコスト見合いになることもご理解ください。
最近はOPCやORiNといった国際標準規格が出て来てきており、異なる機器を同じネットワークに接続する方法がとられつつあります。しかしながら、この考え方も1つに統一されるか否かも含めて時間がかかると想定されますので、自社の現状や将来のビジネス展開を見た上で最適な方法を取捨選択していく必要があると思います。
製造現場の方には何やら小難しい話に感じると思いますが、求める情報をできるだけ細かく正確かつリアルタイムに追及して行けば行く程、上記の考慮が必要となり、手間やコストがかかるのだとご理解ください。
手っ取り早くすぐに効果につながることを意識するのであれば、最低限必要な情報に留めて低価格なセンサー類と無線環境をうまく活用するのが良いと感じます。
各業務に対するIoT活用のポイントについてまとめます。
(1)設備管理(保全、予知/予兆)
設備保全の従来手法として定期点検による予防保全があります。
この方法の場合、定期点検やメンテナンスをする部品と時期を明確にするのが難しいといわれています。変に設備を止めて部品をバラしてしまうと再度稼働した際にうまく動かなくなるのではと恐れて、ついつい故障してから対処してしまうとお聞きします。そこで、過去の故障実績から故障する部品と時期を把握し、定期点検の精度を上げることを行います。
故障が発生した場合の記録を行う際にタブレット端末を活用して現場で即入力し、補修部品在庫の確認をすることで迅速な処置につなげ情報を蓄積する。生産数(ショット数)や停止情報をPLCや外付けセンサーから収集し、将来の計画と併せてメンテナンス時期の精度を上げる、といったことが可能となります。タブレット端末の入力については入力候補からよく書く文字を選んだり、手書き文字や音声をデジタル変換したりすることで入力の手間を減らせる工夫がされています。
もっと精緻な部位ごとの温度、圧力、回転数、振動、油の色や成分などといった情報が設備からとれれば、その情報の収集とビッグデータの解析ソフトで異常値を検知して故障発生を防止することにつなげます。これを予兆管理による予知保全と言います。大規模なプラント設備では事例が出てきています。生産設備についても今後はインテリジェントな設備が普及してくることにより事例が増えると予想されます。
(2)現場改善(動作改善、工程統廃合)
現場改善のポイントは3現主義(現地、現物、現実)に基づき現在の生産状況を定量的に把握することになります。収集する情報は工数(主作業時間、段取り時間、間接作業、手待ち時間etc.)、生産実績(良品数、不良品数(不良要因別))、設備稼働(設備停止時間(停止要因別)、設備停止回数)、廃棄数(製品、部品)、部材投入量などとなります。これらの情報を精緻に収集できれば生産性、品質、設備稼働における生産管理指標は一通り算出可能です。
一度に全ての情報を自動で収集はできませんが、自動と手動の手段を併せて一通り情報収集して現場での生産状況のデータを統合管理します。設備に接続しているPLCや設備の外側にセンサーを付けることにより、生産実績や部材投入実績、設備稼働を収集できます。
設備から実績収集できない場合は、かんばんや不良要因コード表に印字されているバーコードから半自動で実績を収集することで、現場作業者が作業の流れの中でも簡単に実績を収集することができます。
今は無線で位置情報を収集するセンサーを天井や壁に設置して、ラインで作業している人に持たせているIDカードなどのRFIDや位置情報収集センサーから滞在状況を把握する方法もとられています。そのデータをうまく活用すれば、人がラインに滞在している時間、離れている時間や、部品や製品を運搬しているルートを把握できます。運搬ルートについては、後から分析して最適ルートに変更することで運搬の効率化につながります。他にも箱に付けたかんばんの位置センサーが置き場の位置に滞留している、入った出た情報から在庫量や入出庫の把握につなげる活用例も出てきています。
カメラとデジタルエンジニアリングの技術の活用で、工場レイアウト情報とカメラで撮影した画像から空きスペースの寸法を算出したり、設備の干渉がないかを検証したりできます。これにより、3現主義に基づき工程レイアウトを精緻に迅速にシミュレーションすることが可能になります。
現場から収集した実績情報を統合データとして収集できれば、そこから可動率など生産管理指標を算出して現場の液晶モニターに即座に表示できます。この利点はリアルタイムに近い状態で状況が更新されることもありますが、月次で報告した際にも週次、日次、直単位、実績発生時点情報までデータを追跡できる点です。例としては、設備停止が前月より3時間増えていた場合、定期的に停止しているのか、突発的に停止したのか、その停止要因は同じ要因なのか、別の要因なのかといった確認が現場でデータをみながらできることです。
生産指標は定義を標準化しておくことが前提となりますが、複数の工場の同一工程で横並び比較することにより、現場の実力値を定量的に把握できます。その状況を見て工程の統廃合に役立られます。例としては、海外の工場と国内の工場を比較した際に、国内の工場は生産性が高く、不良率が低い、生産稼働率(仕事量)も低い場合、人のレート、機械のレート、輸送コストを合わせながら比較して、海外工場の指導をして現場力を高めていくのか、国内に一部シフトして比率を高くしていくのかといった判断が的確にできるようになります。ゆくゆくは、国内の労働力は半分以下に減少するといわれていますが、一気に国内の生産体制がなくなるわけではないため、国内の生産能力を最大限に活用する考え方は今なお重要です。
特にトヨタ生産方式では、後補充の三種の神器である「かんばん」「平準化ポスト」「ストアー」にはこれまで紙を使用してきました。最近は電子ペーパーや書き換え可能な電子かんばんとタブレット端末の活用により、かんばんを使用するときに印字して使用後は回収して再利用することで物の運搬と保管の時だけに限定して使用する活用例が出てきました。かんばんの「生産指示」「明示」「移動」の役割の内、「生産指示」はタブレットに表示され、「明示」「移動」は必要な時に必要な分のかんばんを印字して使う点が変化点となります。特に、生産変更に応じたかんばんの増減枚管理に手間がかかっていたのですが、これが不要になります。これにより、工程のレイアウト変更や新製品の追加時の変更作業が迅速にできるため、現場はより生産活動に専念でき、作業者に優しい環境を実現します。
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