ワクワクを活力に伸びるVR市場、ところでVRとARとMRは何が違うの?:VRニュース(2/3 ページ)
デル 最高技術責任者 黒田晴彦氏がVRのこれまでの歴史や現状の技術、今後予想できる動きについて、同社主催イベントで語った。VRとARとMRの定義の違い、活用方法の違いについても説明した。
米国の学校でVRを用いた授業が既に実施されていることも紹介した。例えば、人体や宇宙空間など、現実の世界で触れることが困難なものについて学習するのにVRが適していると黒田氏は説明する。「写真で見るよりも、実際に(仮想の)宇宙空間に出ていった方が、よほどピンとくる」(黒田氏)。
技術者のトレーニングにおける活用については、航空機のゲートリングの例を示した。人命を預かる、「1回のミスが命取りになる」ようなオペレーションであるため熟練しているに越したことがないが、実機での訓練は機会が限られてしまう。そこでVRを活用すれば、十分訓練が積めるというわけだ。
航空宇宙分野のエンジニアリングにおいては、人工衛星などの実機が宇宙空間でどのような挙動をするかどうか、実験する機会を得られない。また、設計開発している段階では、実機のイメージがわきづらい部分もある。HMDからのぞく仮想世界の中であれば、設計開発の段階から実機の挙動を体験できる。
「子どもの頃の想像力が非常にたくましく、心もみずみずしい。子どものころに、おとぎ話を聞いて『あー面白いな!』と思って、いろいろなイメージを膨らませるが、だんだん大人になっていくと、話を聞いても『いや、それは作り話だし……』とイメージがわかなくなってくる」(黒田氏)
子どもの頃に素直に感じていた純粋なワクワク感が、さまざまな経験を重ねて大人になるにつれて、現実世界は自分が知っていることばかりになって、日々の生活の中でワクワク感がしぼんでいってしまう。
「VRコンテンツを通して、仮想現実の中に入り込んで体験する」ということが、再びワクワク感を呼び戻すことになると黒田氏は話す。それは、自分のこれまでの経験から知りつくした現実を超えるからだ。そして、そういうVRコンテンツで味わえるワクワク感が、今、VRブームやビジネスを動かしている力であると同氏は言う。
ワクワクすれば集中力が増す。また購買意欲、改善意欲、学習意欲といった、さまざまなシーンでの意欲が増す。VRの持つそういう要素が、ビジネスに新たな活力を生んでいると黒田氏は説明した。
コンテンツの制作方法や技術
VRの制作においては、プランナーやディレクター、CGクリエイター、写真家、映像編集者、技術者とさまざまな分野の人が携わる。それを全て1人でこなしてしまうような人もいれば、組織で作り上げる場合もある。
従来のように3D CGから作り上げる方法もあるが、現在は3D CAD側がVRでの活用を考慮した機能を実装してきており、そのデータを基にする方法も出てきている。安価な360度カメラで撮影した写真なども利用できる。
仮想世界をリアルに表現するためのレンダリングはコンピュータ・パワーを非常に費やす処理である。例えば第1次VRブームの頃は、Virtual Boyでモノクロで表現するのが限界であったような時代だった。当時よりはるかに高性能なPCが存在する現在では、フルカラー表示は当然ながら、リアルタイムレンダリングも可能になっている。
現在のVRのゴーグルはエントリーモデルからハイエンドモデルまで性能が幅広い。必要なマシンスペックはそれぞれで異なってくる。ハイエンドモデルでは推奨スペックが細かく定められていたり、利用するマシンが決められていたりする。一方、エントリーモデルでは、安価なHMDを利用して、手元にあるスマートフォンを用いて利用することが可能だ。サムスンの「Galaxy Gear VR」はスペック的にその中間に位置する存在であり、同社のスマートフォン「Galaxy」シリーズの対応機種での利用に限られる。
VRコンテンツにおいて自然な見え方(精度)の指標として、2種類の「レート」が存在する。「フレームレート」は、「1秒間に表示する映像のフレーム数」である。当然、細やかであるほど滑らかな表示になる。「現在のVRシステムでは30fps(1秒当たり30フレーム表示)が多いが、60〜90fps(1秒当たり60〜90フレーム表示)くらいあると望ましい」(黒田氏)。
VRコンテンツを体験した際、特に下方から上方へ大きく仰いでみた時などに気分が悪くなる、いわゆる「VR酔い」を感じることがある。こちらに影響するのが「リフレッシュレート」(垂直同期周波数。1秒当たりの映像を更新する回数)だ。リフレッシュレートを高くすることで描画の遅延を20ms以内に抑えれば、緩和できるといわれている。
「できたらいいな」と思っていることは?
それではVRをビジネスの分野においてどのように応用していけばよいのか。VRは仮想世界に没入することで現実と隔離された気分になる。黒田氏は、そんなVRの力を有効に活用できるのは、「できたらいいな」「だけど無理だよね?」と思うようなことだという。
つまりビジネスにおいて、「行けないと思っていたけれど、行けた」「見えたらいいのに……と思っていたものが、見えた」「できないと思っていたと思っていたけれど、できた」という体験をVRでユーザーに提供することである。
逆に、「現実世界で当たり前に体験しているようなことには向かない」と黒田氏は説明する。
またVRと、AR・MRとでは、技術は似ていても、活用の仕方が大きく異なると黒田氏は述べる。VRは現実の世界が見えないことに対し、ARとMRは現実の世界が見えているという大きな違いがあるからだ。
「街中のとある地点に行くと、『ここであなたにお知らせです』と文字や音声、映像などの情報が飛び込んでくるような仕組みが、ARやMRの効果的な活用の1つである」(黒田氏)。VRは現実の場所とは関係なく利用して情報を得るものである一方、ARとMRは現実の場所やそこでのオペレーションにひもづいた情報を提供できる。しかも、人、モノ、場所など条件を組み合わせ、それらに応じて提供する情報を変えることも可能である。
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