人工軟骨材料の実用化に向け、産学共同研究を開始:医療機器ニュース
北海道大学と日本特殊陶業は、北海道大学産学・地域協働推進機構に「高靱性ゲルの軟骨応用部門」を共同で開設した。ダブルネットワークゲルを人工軟骨材料として実用化する共同研究を進め、治療が困難な軟骨疾患の治療に役立てる。
北海道大学は2017年1月1日、日本特殊陶業と共同で、北海道大学産学・地域協働推進機構に「高靱性ゲルの軟骨応用部門」を開設した。近年、高齢化に伴って増加している治療困難な軟骨疾患について、新たな治療材料・治療方法を提供することを目的としている。
共同研究には、ダブルネットワークゲル(DNゲル)を開発した同大学大学院先端生命科学研究院と、人工骨などの整形外科向け医療機器の製造販売を手掛ける日本特殊陶業に加え、同大学大学院医学研究科も参加する。これにより、DNゲルを人工軟骨材料として実用化する研究を、開発段階から臨床使用を見据えて効果的に進める。
DNゲルは、「硬くて脆い高分子網目」と「柔らかくてよく伸びる高分子網目」という性質の異なる2種類の高分子網目が互いに助け合うことで、亀裂の進行を抑える。そのため、生体軟骨と遜色のない、10〜60MPaという高い圧縮破断応力を持つ。
また、DNゲルは水分を90%近く含んでおり、一般的なプラスチック材料よりも軟骨に類似した低摩擦な特性を持つ。さらに、DNゲルの最表面近傍に骨伝導性を持つセラミックス「ハイドロキシアパタイト」を形成させることで、ゲルのクッション性を維持しつつ、骨と結合できるようになる。骨軟骨欠損部に補填すれば、軟骨下骨と結合し、周囲への脱落や転移を抑制できる。
通常、軟骨には血管や神経などがないため、損傷しても自然治癒することはなく、現状では治療は困難だ。しかし、ウサギの膝関節の骨軟骨欠損部にDNゲルを埋植したところ、正常な硝子軟骨の再生が確認された。これは、細胞を用いずに正常な硝子軟骨の再生が確認された世界で初めての例だという。
今後、2020年の臨床試験開始を目標とし、材料組成の最適化、製造プロセスや安全性の確認、術式や周辺デバイスを含めた開発を進めていく。
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