インドに残る混沌と、次第に浸透する欧米流ライフスタイル:新興国自動車事情(5)(1/4 ページ)
インドの首都デリーは、大ざっぱに捉えると2つに分けることができます。昔からの市街地オールドデリー、そして行政機能を持ちビジネス街としても整備されたニューデリーです。その境界近くは、昔ながらの雰囲気と近代的なモータリゼーションが混在する、不思議な感覚に満ちていました。
モータリゼーションは発展途上
まず始めに、インドの自動車市場について見ていきましょう。インド自動車工業会(SIAM)によれば、インド国内における2015年度(2015年4月〜2016年3月)の自動車販売台数は347万5382台です。このうち商用車は68万5704台ということなので、乗用車はおよそ279万台ということになります。
インドの2015年の人口は約12億9300万人と、世界最大の中国より8000万人ほど少ない程度。しかし、国内販売台数に目を転じれば、2460万台に及ぶ中国との差は歴然。世界中の自動車メーカーが、いずれ巨大な市場に成長すると考えるのも当然に思えます。
かつてインドでは、乗用車といえばヒンドゥスタン・モーターズの生産する「アンバサダー」が代名詞のような存在でした。「モーリス・オックスフォード」をベースとして、1957年に発売されてからモデルチェンジされることなく、細かな改良だけを受けつつ生産が続けられていた車種です。
しかし、マルチウドヨグ(現在のマルチスズキ)の「800」を嚆矢(こうし)とし、他メーカーからも新型乗用車が市場に登場してくると、アンバサダーは次第に勢力を縮小。新車として購入するのは警察をはじめとした官公庁、それに「インドらしさ」を演出したいホテルに送迎する上級タクシーといった程度。個人で購入することはほとんどなくなっていたようで、とうとう2014年に生産を終えました。現在デリー市内では時々見かける程度で、その多くはパトカー仕様となっています。
ちなみにSIAMの統計には、二輪車の他に三輪車という項目もあります。その台数は53万8092台で、ここには「オートリキシャー」や農村部で使われるトラックなどが含まれます。オートリキシャーはバジャジやTVSといった二輪車メーカーの主力商品の1つです。
大気汚染が深刻な問題となっていたデリーでは、2000年代に入ると路線バスとリキシャーの燃料をCNG(圧縮天然ガス)に変更。かつては2ストロークエンジンを搭載していたリキシャーですが、現在は4ストロークに置き換えられています。またモーターを搭載したハイブリッドモデルもあるといううわさも耳にしましたが、こちらは実際に見かけることはありませんでした。
なお二輪車の年間販売台数は1645万5911台と、乗用車と比べると桁違いの数字を記録。全国的に見れば、まだまだパーソナルモビリティといえばまずモーターサイクル、という感覚であることもうかがえます。
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