“シンの”トヨタ生産方式とは? 実践事例から学ぶ経営改善の決め手:鈴村道場(5)(1/3 ページ)
「トヨタ生産方式」は、生産という言葉が使われていることもあって「生産業務の現場改善のための手法」と誤解されていることが多い。しかし実際には、事業活動全般に適用できることから企業の経営改善に役立っている。トヨタ生産方式の達人・鈴村尚久氏が、実践事例を基に、“シンの”トヨタ生産方式について解説する。
「トヨタ生産方式」に対して、「生産業務の現場改善のための手法である」とか「トヨタの独特な企業文化のみで成り立つ手法である」とかといった誤解があると感じております。
私は、トヨタ生産方式に基づいてさまざまな業種で経営改善を行ってきました。そこで今回は、トヨタ生産方式による経営改善の本質について、実践事例を基に説明していきます。
1.“シンの”トヨタ生産方式導入の効果について
何はともあれ、私の指導した顧客企業(クライアント)が得られた効果についてまず説明をします。
- 経営効果(定量効果)
- 欠品がほとんどなくなる→在庫が劇的に少なくなりキャッシュフローが良くなり、不良資産がなくなる
- 同じ人員で倍の需要にも柔軟に対応できるようになる。特に多品種少量品の生産リードタイムが各段に短くなり、即納が可能になる
- レスポンスが向上することにより製品の質も劇的に向上する。特に生鮮食料品スーパーや飲食チェーンでは新鮮でおいしい商品を提供でき、売上増加につながる
- 定性効果
- 5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)の浸透により、社員のモチベーションが高まる
- カイゼンの癖がつくことにより、経営者、中間管理職含め社員のコミュニケーションが円滑になり改善提案が活発化し組織力強化につながる
- 地域の優良企業としての価値向上につながり、優秀な社員を継続して採用できるようになる
特にお伝えしたいのは、私の改善範囲は事業活動全般にまたがっているということです。生産がベースであるという思想はトヨタ生産方式と同じですが、生産だけを改善しても経営効果は限定されます。
販売、調達、生産、物流の一連のサイクルを円滑にすることが重要なのです。
一番重要なのは設計業務の改善ですが、ここに手を付けるのは最後にしています。
製造業でも、流通業でも、小売業でも、自動車、家電、半導体、産業機械、食料品でも、どの分野でも適用できます。
また、トヨタ生産方式を熟知している方々の中にも「需要変動が少ない範囲でしか適応できない」との誤解があります。
これは間違いです。うまく応用していけば、季節変動の大きな業種でも多品種少量生産の究極の形である、個別受注生産にも適用できます。
私が言うのも変ですが、これだけの効果を実際に味わうと、経営者、中間管理職、社員含め私の指導に真剣に耳を傾けます。私の指導は決して優しいわけではないですが、皆さん楽しみながら実践して行きます。
- 「先生の指導で外部からの購入を内製に切り替えたら年間50万円のコストが低減できました」
- 「配送ルートを見直したら配達頻度を倍にした上で車の数を減らせ、コストが3分の1減りました」
といった形で次々と改善を行い効果が出ますので、皆さん私の指導会では生き生きとした答えが返ってきます。
では次から、私がどのような考えにのっとって指導をしているかについて説明していきます。
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