電池を分解せずに電解液中のリチウムイオン挙動観察に成功、トヨタが世界初技術:電気自動車
トヨタ自動車は、リチウムイオン電池が充放電する際に電解液中を移動するリチウムイオンの挙動を、ラミネートセルのままリアルタイムに観察する手法を開発した。X線を透過させにくい重元素を含む電解液を使用することにより、放射光X線でリチウムイオンの濃度を撮影できる。
トヨタ自動車は2016年11月24日、リチウムイオン電池が充放電する際に電解液中を移動するリチウムイオンの挙動を、ラミネート型電池セルを分解することなくそのままの状態でリアルタイムに観察する手法を開発したと発表した。X線を透過させにくい重元素を含む電解液を使用することにより、放射光X線でリチウムイオンの濃度を撮影できるようにした。
電解液中のリチウムイオンの偏りを明らかにすることにより、電池の使用領域を増やし、電気自動車やプラグインハイブリッド車の走行距離の延長につなげる。
リチウムイオンの偏りが知りたい
リチウムイオン電池は、充放電によって電極や電解液の中でリチウムイオンの濃度が片寄ることが分かっている。例えば負極は、放電後にセパレーター側にリチウムイオンが集中し、集電体側は少なくなる。このように電極中のリチウムイオン濃度に偏りが発生することで、電池として使用できる領域は減少する。この結果、電気自動車などの走行距離が短くなったり、少ない使用領域で電池を使い続けることで電池寿命も減少したりする。
このため、リチウムイオン濃度の偏りをなくすことがリチウムイオン電池の性能向上に向けた課題となっている。従来の手法では、リチウムイオン濃度の偏りを分析するには、充放電の前後でリチウムイオン電池を分解し、特殊な環境下で観察する必要があった。そのため、実際の製品が充放電するのと同じ環境/条件でリアルタイムなリチウムイオンの挙動を観察することが難しかった。また、電極のリチウムイオンの偏りを観察する手法はあったが、電解液中を観察する方法を確立するのが課題となっていた。
これを受けて、トヨタ自動車と豊田中央研究所、日本自動車部品総合研究所、北海道大学、東北大学、京都大学、立命館大学が共同で、電解液中のリチウムイオンの挙動を観察する手法を開発した。
世界初の手法
新開発の観察手法は、リチウムイオンをX線で撮影するというものだ。リンと比較してX線を透過させにくい重元素の性質を利用し、リチウムイオン電池の電解液をリン(P)を含むものから、リンよりも原子量の大きい重元素を含む電解液に変更する。リチウムイオンが電解液中を移動する際に結合するリン含有イオン(ヘキサフルオロリン酸リチウム)が重元素含有イオンに置き換わることで、リチウムイオンの濃度を影として撮影できるようになる。リチウムイオンの濃度が高いほど影が濃くなる。
重元素の詳細については非公表だが、重元素含有イオンに替えても電解液内でのリチウムイオンの挙動に影響しないため、リンを含む電解液とそん色ないリチウムイオンの挙動を観察できるとしている。
リチウムイオンの撮影には、世界最高性能の放射光を生みだす大型放射光施設「SPring-8(Super Photon ring-8 Gev)」の豊田ビームラインを使う。豊田中央研究所が理化学研究所と高輝度光科学研究センターの協力を得て設置した専用ビームラインで、レントゲン装置の約10億倍の大強度X線を用いて、解像度0.65μm/ピクセル、100ms/コマの計測を行う。
観察は、ラミネート型電池セルの状態のリチウムイオン電池に放射光を当てながらカメラで撮影して行う。実際に、放電前後の画像を比較して、影の濃淡の差からリチウムイオンの濃度を検知することに成功した。電極内の一部に反応が集中することにより、電解液中のリチウムイオン濃度の偏りが発生すると考察している。
大強度X線と、重元素を含む電解液を組み合わせ、ラミネート型電池セルの状態でリチウムイオンの濃度を可視化する手法は「世界初」(トヨタ自動車)としている。
新開発の観察手法を用いることにより、電極やセパレーター、電解液の材料や濃度、電流の制御を変更してリチウムイオンの挙動がどのように変わるかを観察しやすくなる。開発期間の短縮につなげるとともに、電気自動車やプラグインハイブリッド車の走行距離延長や電池の寿命改善を急ぐ。
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