公共の場所におけるAEDの設置増加で、救命者数も増加:医療機器ニュース
京都大学は、公共の場所でAEDの設置が増えたことに伴い、市民のAED使用とそれによる心停止からの救命者数が増加したことを明らかにした。これにより、AEDの普及が心臓突然死対策として有効であると示された。
京都大学は2016年10月27日、日本において公共の場所で自動体外式除細動器(AED)の設置が増えたことに伴い、市民によるAED使用と、それによる心停止からの救命者数が増加したことを発表した。同大学環境安全保健機構の石見拓教授、大阪大学医学系研究科の北村哲久助教授らの研究グループによるもので、成果は同日、米学術誌「New England Journal of Medicine」に掲載された。
同研究グループは、消防庁が全国の救急搬送された心肺停止患者を対象として実施している調査データを用いて、市民からAEDによる処置を受け回復している生存者数を調べた。
心肺停止患者のうち、2005年から2013年までに市民が発症を目撃した病院外での心原性心室細動患者数、4万3762人に注目。そのうち、市民による電気ショックを受けた人は、4499人(10.3%)だった。年別で見ると、2005年には1.1%だったが、2013年には16.5%まで増加していた。つまり、公共の場所のAED増加に伴って、市民による電気ショックの実施が増えたことが分かった。
また、心停止1カ月後に脳機能がどの程度回復しているかを指標にして、順調に回復している生存者の割合を調べた。その結果、市民による電気ショックがある場合は38.5%(4499人中1731人)、ない場合は18.2%(3万9263人中7155人)と、確率が倍以上となっており、有意に高い結果となった。さらに、市民による電気ショックが貢献したことで順調に回復したと考えられる1カ月後の生存者の数は、2005年の6人から2013年の201人まで増加していた。
これらのことから、市民によるAEDを用いた電気ショックの実施が増加したことは、心停止患者の救命率向上に貢献しているといえると結論づけた。
AEDを用いた早期の電気ショックは、病院外での心室細動の患者を救命するのに重要だ。日本では、2004年7月から市民によるAEDの使用が法的に許可され、2013年には42万台以上が公共の場所に設置されている。しかし、公共の場にAEDが普及したことの効果について、国家規模での評価はこれまで十分に行われていなかった。
今回の研究により、AEDの普及が心臓突然死対策として有効であることが示された。一方で、AEDの普及台数に対して救命された人数は不十分ともいえるため、研究グループはAEDの利活用を促すための教育やSNSを利用したAEDの活用率を高める仕組も構築していく予定だ。
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