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人工衛星「ひとみ」はなぜ失われたのか(後編)生かされなかった過去のアクシデント(4/4 ページ)

宇宙空間で自壊するという大事故を起こしたX線天文衛星「ひとみ」。直接的な原因は打ち上げ後に連続して起こった小さなミスだが、根本的な原因はJAXAという組織が内包する性質にある。

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軽視された運用の重要性

 ひとみでは、事故の要因として、運用計画の不備が指摘されていた。打ち上げまでに、関係者による運用調整会を約20回開催し、「初期運用計画書」を制定したが、スラスタ制御パラメータの変更運用については議論されず、文書にも記載されることは無かった。これが現場の混乱を引き起こし、致命的なミスにつながった。

 これについて、調査報告書は「運用準備に対する意識が十分でなく、衛星の安全な運用よりも観測機器の装置開発および観測が優先されたことにより、衛星の安全運用の準備が後回しにされた」と指摘しており、「運用準備は開発と平行して早期に開始し、十分な時間をかける必要があったが、それができていなかった」と結論づけた。

ひとみの運用フェーズにおける課題。さまざまな問題があった
ひとみの運用フェーズにおける課題。さまざまな問題があった

 似た話は日本中にゴロゴロしているだろう。初期投資だけして保守費用を惜しむ、あるいは徹夜続きでシステムを作り上げたはいいが、十分な検証ができないまま納入するなどだ。運用や検証という目に見えない部分はどうしても後回しにされがちだが、この結果は失敗という分かりやすい形で帰ってくる。

 ひとみの事故のあと、筆者の頭の中に浮かんだのは、小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワにタッチダウンした際、弾丸が発射されずに、予定した方法でのサンプル採取に失敗したことだ。結果として、カプセルの中には微粒子が紛れ込んでおり、「大成功」のような印象になっているが、これはかなり重大な失敗だった。

 弾丸が発射されなかったのは、プログラムの設定ミスが原因だった。しかし単に作業担当者だけの問題かといえば、そうとはいえない背景がある。当初、はやぶさは4年で帰還する計画で、そのためにはイトカワに3カ月しか滞在する時間がなかった。この間に表面の科学観測を行い、タッチダウンのリハーサルをして、本番に挑む必要がある。

 未踏の小惑星探査では、到着するまで小惑星の様子が分からない。それが火星や金星などとの大きな違いだ。まず科学観測をして、タッチダウンする場所を選び、安全にタッチダウンできる方法を考える。当初は自律のみでイトカワに降下する予定だったが、途中まで地上から支援する方法に切り替えた。それほどの混乱の中での作業だった。

 この「余裕の無さ」が根本的な原因だったといえる。はやぶさは2回目のタッチダウンのあと燃料漏れを起こし、地球への帰還が3年遅れた。あくまでも結果論ではあるが、当初から7年計画になっていれば、余裕を持って運用することができ、サンプルをもっと多く持って帰還できたかもしれない。

 はやぶさは工学目的の実証機なのだから、サンプルが採取できなかったとしても即失敗とはいえない、というのは正しい。だが、余裕の無い運用は、一歩間違えれば致命傷にもなりかねない。工学目的とはいえ、そもそもの計画に無理がなかったか、考える必要はあるだろう。

 恐らく、過去の衛星や探査機の運用の中でも、さまざまな“ヒヤリ・ハット”があったはずだ。その時点でもっと運用を重視するような体制が構築できていれば、もしかしたらひとみの事故を防ぐことができたかもしれない。ひとみを無駄にしないためにも、JAXAにはしっかりした改革を期待したい。

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