外資系製造業が国内生産に踏み切る理由――3Mの防じんマスクの場合:モノづくり最前線レポート(1/3 ページ)
製造業にとって日本国内で生産を行うには一定のリスクが伴う。特に、外資系の製造業であれば、新興国で低コストで生産し、それを輸入販売すればよいので、国内で新たに生産を始める必然性は低い。しかしこのほど、グローバル企業・3Mの日本法人であるスリーエム ジャパンは、防じんマスクの国内生産に踏み切った。その理由とは。
製造業が日本国内で生産を行うには一定のリスクが伴う。労働コストが新興国より高いのはもとより、為替変動による円高の影響も考慮すると、利益確保の観点からみて、新規の工場や製造ラインを設置して国内生産を始めるという決断は難しい、というのが一般的な考え方ではないだろうか。
特に、世界全域に生産拠点を展開している外資系の製造業であれば、新興国で低コストで生産し、それを輸入販売すればよいので、国内で新たに生産を始める必然性は低い。しかし、2015年末から、それまで輸入に頼っていた製品の国内生産に踏み切った会社がある。グローバル企業・3Mの日本法人であるスリーエム ジャパンだ。
同社は、子会社のスリーエム ジャパン プロダクツの山形事業所(山形県東根市)で、不織布研磨材や家庭用ナイロンたわし、コネクタ、粘着テープなどを生産している。その山形事業所の新たな生産品目に加わったのが、使い捨て式防じんマスク「Vフレックス」である。
スリーエム ジャパンは、なぜこのVフレックスの国内生産に踏み切ったのか。Vフレックスなどの使い捨て式防じんマスクをはじめ、個人用保護具を扱う同社 安全衛生製品事業部 事業部長の浅野剛氏に聞いた。
防じんマスクのリーディング企業
3Mは言わずと知れたグローバル企業だ。売上高は310億米ドル、純利益は50億米ドルに上る。産業用の研磨材やテープを扱う「インダストリアル」、個人用保護具や標識、商業看板などの「セーフティ&グラフィックス」、電気/エネルギーの「エレクトロニクス&エネルギー」、医療や食品関連の「ヘルスケア」、「ポスト・イット」に代表される消費者向けの「コンシューマ」という5つのビジネスグループで事業を展開している。
セーフティ&グラフィックスで扱う個人用保護具とは、工場や建設といった現場での作業に従事する人々を守るための製品になる。防じんマスクのような呼吸保護具、防音保護具、音響検知、落下防止、保護メガネ、頭部・顔面保護具、溶接用遮光面、高視認ユニフォーム、化学防護服など多岐にわたる。
これらの中でも防じんマスクは、3Mが持つ基礎技術の1つである不織布を基に、1960年代に製品化された。防じんマスクには、取替え式と使い捨て式の2種類がある。浅野氏は「日本国内における使い捨て式は、3Mが約30年前に輸入販売した製品が初めてのものになる。以降、海外だけでなく国内でも防じんマスクのリーディング企業として地位を確立している」と語る。
防じんマスクで重視されるのは、細かな粉じんやPM2.5といった粒子を捕集する効率である。米国労働安全衛生研究所(NIOSH)が定める粒子捕集効率95.0%以上をクリアする規格「N95」、日本の国家検定で同じく95.0%以上の粒子捕集効率を示す「DS2」の取得が1つの目安となる。
このN95とDS2を満たしつつ、吐く息を出しやすくして湿気を外に出す排気弁を付けたり、排気弁からの排気を下向きに出すことで眼鏡が曇らないようにしたりするなど、快適性を高めることで商品価値が出てくる。
また、吐く息を出しやすくするだけでなく、息を吸いやすくすることも重要だ。防じんマスクで息を吸いやすくするには、フィルターの面積を広くすると良い。とはいえ、ただ大きくすればいというものではなく、顔のサイズに合わせられる必要もある。
浅野氏は「これらのさまざまな要件を満足する、主力の使い捨て式防じんマスクとなるのが、今回国産化に踏み切ったVフレックスだ」と説明する。
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