3D設計推進者が考える、3D CADについてのあれこれ:3D設計推進者の眼(12)(2/3 ページ)
機械メーカーで3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者から見た製造業やメカ設計の現場とは。今回は無償3D CADや、2D CADのデータ保全、異種のデータフォーマット間での受け渡しなど、CADの機能や開発にまつわるさまざまな話題を取り上げる。
2D CADのデータや投資
既存資産の2D CADデータの保全は、3D CAD推進者が考えなければならない重要な要素です。
2D CADとの移行に特化した3D CADもあります。これら製品は、既存の2D CADの機能を重要視しつつ、3D CADへの移行を図れることが特長です。
- M-Draf Suite(ムトーエンジニアリング、日本)
- CADSUPER Works(アンドール、日本)
私自身、実際にMicro CaelumとM-Drafを用いて2D CAD機能を評価したことがあります。2D CADの保全の必要があって、その変換後の取り込みを評価しましたが、レイヤー構造や製図記号やテキストなどの変換性能は良好でした。
3D CAD推進を行っていると、2D CADへの投資にはちゅうちょするものです。しかし、既存の2D CADデータの保全というものは3D CAD推進者にとっても必要不可欠な課題でもあります。
今日では、「DraftSight」(ダッソー・システムズ、フランス)のように無償の2D CADもあります(有償のバージョンもあります)。無償の2D CADの活用法については、2D CADデータ保全への投資を抑えて、3D CADへの投資に持ってくるという考え方もあります。
異種のデータフォーマット間での受け渡し
CADに少し詳しい人と話をするとカーネルという話が出てきます。
カーネル(kernel)とは、「3D CADがコンピュータの中で3Dの形状を表現するためのエンジンのようなもの」です。カーネルには市販されているもの、3D CADメーカー独自のものがあります。
市販されているものでは、パラソリッド(Parasolid)が多く利用されています。他にはエイシス(ACIS)というものがあり、Inventorや建築系の3D CADで多く利用されています。日本国産のカーネルもあります。ハイエンドのものになると、その機能性上、独自のカーネルを採用しているようです。
カーネルについて、私が知っている限りですが、整理してみます。
ハイエンド
- CATIA:独自
- Creo Parametric :独自
- NX:パラソリッド
ミッドレンジ
- SOLIDWORKS:パラソリッド
- Creo Elements/Direct Modeling:独自
- Autodesk Inventor:エイシス
- Solid Edge:パラソリッド
- TOP Solid:パラソリッド
- iCAD SX:独自
- IRONCAD:パラソリッドとエイシスのデュアルカーネル
カーネルが異なる3D CAD間では、そのままデータを渡すことはできませんでした。
また、これまではIGESやSTEPといった中間ファイルでの受け渡しが主流でした。IGESはANSI(American National Standard Institute)の規格として承認された経緯があり、STEPはISOが標準化を進めている国際標準規格です。私の経験では、受け取った中間ファイルから正しく3Dモデルが再現できないことも多々ありました。その場合は、取り込んだ後の修正が必要で面倒です。
他にも例えばSOLIDWORKSで穴ウィザードを用いて穴の属性情報(穴タイプ)を設定した場合、SOLIDWORKSの同一バージョンや上位バージョンへは、その情報を受け継ぐことはできますが、パラソリッドとしてiCAD SXへ受け渡したい場合、ストレートにはいかず、一工夫が必要です。実は今、これが私の課題だったりします。
これらの問題は、社外の異なる3D CAD環境との間で発生することが大いにあり得るわけです。
前回も触れましたが、同じパーツを表現しても、異なる3D CAD間ではそのファイル容量は異なります。これはヒストリー/ノンヒストリーによる情報有無によっても変わるのですが、そもそもデータの構造によっても異なります。
最近では、異なる3D CAD間でのネイティブデータのインポート/エクスポートも対応できるようになってきました。欧米の3D CADメーカーがユーザーのマルチCAD環境に理解を示して、そのような機能を実装しだしたようです。
とても便利な機能ですが、自分が所有していない、相手方の3D CADを持っている必要性もあります。CADのバージョンの指定もあるので、運用には注意が必要です。
また最近では、3D CADデータのトランスレータもあります。このような新機能やツールは魅力的なものですが、中小企業にとってはそのコスト負担は軽視できるものではありません。
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