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ロボットの“PARC”「Willow Garage」が撒いた種(4/4 ページ)

シリコンバレーのロボットベンチャー関係者で「Willow Garage」を知らない者はいない。ROSやTurtleBotの開発元としてはもちろん、輩出した人材は業界に大きな影響を与えており、PCにおけるベル研究所やパロアルト研究所とも呼ばれるWillow Garageの足跡を追う。

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ベイエリア最大のロボット起業家集団の萌芽

 スピンアウトを契機に多くの優秀な社員がWillow Garageを去り、残された人々も一時的な感傷ムードを経て、やがてはWillow Garageで培ってきた技術を使って何ができるだろうと考えるようになった。

 Cousins氏もWillow Garageを去ることを決め、冒頭に述べたSaviokeを創業した。彼は「Willow Garageはシリコンバレーの典型的なサクセスストーリーはならなかった。ただ、私たちはロボット業界に新たな種をまきたかったのであり、それは成し遂げられた」と語っている。

 こうして、ベイエリア最大のロボット起業家集団が生まれた。本稿末尾にWillow Garageの出身者によって創業された企業を列挙してある。パーソナルロボットのインタラクションを実現するために生み出されたコンピュータビジョン、パスプランニング、マニピュレーションなどの要素技術に基づくソフトウェアのスタートアップ、特定のタスクを遂行するサービスロボットのスタートアップなどが見られる。

 スタートアップ以外にも、筆者の知人ではAlphabetのロボット関連企業チームで各種業務用ロボット、自動運転車、UAVの開発をリードする人や、スマホでの3Dスキャンを実現するProject Tangoをリードする人、Robert Boschで自動運転車の開発に関わる人など、ロボット技術に関わる企業の随所でWillow Garage出身者の活躍を目にする。

 彼らはスタートアップの生き残りに奔走しながらも、いつかはパーソナルロボットを実現するのだという思いを胸に、ROS発展のためのコミットは継続的に行っており、企業の垣根を越えた活発な議論がいまだに繰り広げられている。

 Willow GarageはGoogleやFacebookのように成功を果実として得ることはできなかったかもしれないが、専門知識や人脈、起業家としての経験と情熱を併せ持つビリオネアによる時間・金銭的なコミットメントによって、土壌が整い、多くの種がまかれた。

 ロボットによる生活の向上という共有化されたビジョン、トップ研究者の囲い込みによって開発された数々の要素技術、そして研究者と起業家の両方の体験をしてきた人材は、今後のロボット革命の推進を下支えていくことになるだろう。

Willow Garageからのスピンアウト企業

hiDOF:ソフトウェアコンサルティング、GoogleのProject Tangoを主導

Industrial Perception, Inc. (IPI) : 物流・産業オートメーション向けコンピュータビジョントソフトウェアの開発(Googleにより買収)

OpenCV Foundation : コンピュータビジョンのオープンソースソフトウェアを開発・管理

Open Perception Foundation : 2D/3Dデータ処理(PCL: Point Cloud Library)のオープンソースソフトウェアを開発・管理

Open Source Robotics Foundation (OSRF) : ROSやGazeboなどのオープンソースソフトウェアの開発・管理

Redwood Robotics : Meka Robotics、SRIとのジョイントベンチャー、ロボットアームを開発(Meka RoboticsとともにGoogleにより買収)

Suitable Technologies : テレプレゼンスロボットを開発

Unbounded Robotics : 流通向け搬送・ピッキングロボットを開発(Fetch Roboticsの前身)

Willow Garage出身者によって設立された企業

Avidbots : 自動床掃除ロボットを開発

Fetch Robotics : 流通向け搬送・ピッキングロボットを開発

Forge : 3Dスキャンシステムを開発

Fyusion : 3D画像キャプチャー/ビュワーを開発

KINEMA SYSTEMS : ロボットアーム向けソフトウェアを開発

Mayfield Robotics : 家庭用ロボットを開発

Savioke : ホテル向けサービスロボットを開発

Simbe Robotics : 陳列棚の在庫管理ロボットを開発

TORK : ROSを中心としたロボットコミュニティーのサポート

Zipline : 医療物資配達用ドローンを開発


筆者紹介

京都大学大学院工学研究科を修了。ヒューマンインタフェース設計、自動運転システム開発に携わる。その後、戦略コンサルティング会社のアーサー・D・リトルに参画し、主に自動車、機械、電機、化学の分野で新規事業開発、事業・イノベーション戦略策定、M&A支援などを行う。2015年に渡米し、現在はサンフランシスコの起業家・エンジニア育成プログラムに参加する傍ら、ロボットスタートアップの立ち上げに従事。Silicon Valley Roboticsメンバー。@kazookmtでベイエリアの情報を発信。


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