「EMIEW3」に見えた、ヒトとロボットの共生(1/4 ページ)
「EMIEW3」は日立製作所が2018年中の投入を計画している、ヒト型サービスロボットだ。人間とロボットがそれぞれの強みを発揮する「共生」の思想を体現し、「役に立つロボット」であることを目指す。
人と安全に共存できるロボット
日立製作所「EMIEW3」は、商業施設や公共施設など想定されたフィールドで接客を行うヒューマノイド型ロボットだ。あらかじめ作業を決められている産業用ロボットとは異なり、環境に合わせてヒトの要望をくみ取るよう自発的にサービスを提供するロボットと位置付けられており、立ち止まっている人を見つけると自ら近寄って接客応対を行う。人と一緒に目的の場所に案内することもできる。身長90cm、体重15kgと威圧感を与えない大きさで、時速6kmで移動し、万が一転倒しても自分で起き上がる。
ロボット単体が全ての機能を有するのではなく、素早い反応が必要な制御系の一部はロボット側に、一方で処理が重く制御系よりもリアルタイム性が求められない音声・画像・対話などの処理をクラウド側にて行うことで本体の軽量小型化を実現。また、クラウドベースの豊富なリソースにより高度な処理にも対応することができるようになっている。
EMIEW3と接続されるクラウドサービス「ロボットIT基盤」には、あらかじめ行動計画もプログラムされ、人とのコミュニケーションが行われる他、EMIEW3が取得し送信するデータの分析、収集といったことが行われる。業務システムと連携し、商品情報や接客マニュアルなどを共有することで、より実務ベースでの運用ができる。さらに、多拠点・複数台の監視、複数台でのデータ共有、緊急時の遠隔操作など、ロボットサービスの運用の部分(稼働率の監視、向上など)もこのロボットIT基盤から提供していく。
2016年下半期に予定されている実証実験では、公共交通機関のロビーや店舗といったクライアントのフィールドにEMIEW3を投入し、開発パートナーとともに、課題の共有からアイデアの検討、開発、検証と進めていき、よりリッチなロボットIT基盤、より実用的な運用フェーズを整備していく。
EMIEWシリーズの進化と背景
1963年にバイラテラル方式のロボットアームを開発するなど、日立製作所のロボットの開発の歴史は古い。2016年4月に発表された「EMIEW3」についても、人間共生ロボットとして2005年の愛知万博で披露された「EMIEW」に端を発している。この初代EMIEWはいわゆる"ステージデモ用"、ステージで大勢の人に見てもらうため、ある程度身体も大きく(身長130cm、体重70kg)、見栄えが重視された。
次に開発された「EMIEW2」はいわゆる機能検証フェーズの機体。「実際に人がいる環境に出すというときに、まず安全でなければならない(本質安全)、そのため倒れても人の脅威にならないよう小さくしたい」と身長80cm、体重14kgというサイズへと小型化を図った。このときに、本体に主計算機を持たない構成を取った。重い処理機構を外に出すことでロボット本体の小型化、軽量化を図ったのだ。とはいえ、まだ当時の技術では「ちょっとした専用のPCが横にあって」という段階だった。外部システムとの連携というコンセプトは存在していたが、まだ十分ではなかった。
このEMIEW2をベースに、移動や画像(対象)の認識、会話といった機能を進化させ、本格化したクラウドの利用を念頭にこれまで培ってきた技術を統合し、「人と共生し、実作業を担えるサービスロボット」を提供しようという意図で開発されたのがEMIEW3だ。
その背景には、グローバル化・多様化するライフスタイルにサービスの側も高度化が求められているという現状がある。また、高齢化であったり、デジタルデバイドの加速であったり、ITサービスが解決すべき問題はより広範囲に及んでいる。
そうした中、関連技術やセンサー・機械制御の部品がさまざまなところで活用されるようになり、スマートフォンをはじめ、通信ネットワークの普及という技術的な動向がEMIEW3を後押しした。EMIEW3の音声認識モデルにはディープラーニングが使われ、高速性と雑音耐性を実現しているが、ディープラーニングが実用に耐えると認識されてきたのは2010年前後であり、音声認識への本格的な応用が行われたのもそれ以降の話だ。
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