カーデザイナーの仕事は「色や造形を考える」だけではない:クルマから見るデザインの真価(11)(5/5 ページ)
デザインには「誰のためにどんな価値を提供するのか。その導線としてどのような体験が必要か」といったコンセプトと、「そのコンセプトを具現化するにはどのような姿形が必要か」というスタイリング、2つの側面がある。カーデザインも、コンセプトを描き、提供する価値の“メートル原器”を作るところから始まる。
ステップ4 量産に向けた作り込み
デザイナーがやっていること
- 量産のためのデザインの調整、表面処理指示など
- 製造部門や品質管理部門と連携した作り込み
デザイナーが意匠データを設計部門にトスした後も、ちゃんとそのデザインが具現化されることを見守り、必要であればケアしていく役割がある。デザインを、開発の現場からユーザーの元に送り届けられるものへと仕立て上げる段階といっても良いかもしれない。
デザイナーが設計部門との検討を重ね、最終案のデザインモデルの段階までにおおむね問題なく具現化できる見込みをつけたデザイン案でも、実際に試作段階になると製造上の課題が発生し、デザインの部分的な修正が必要になることもある。
この場合、「単純に作りやすい形に変更したら、もともとのデザインとは異なるものになってしまった」……ということが起きないよう、デザイナーが関与して元のデザインの印象のバランスを崩さないよう調整する方がよい。
企業の組織体制によっては量産への作り込み段階ではデザイナーがあまり関わらないという場合もあるが、個人的にはちゃんと工場で組み上がる姿になるところまで関わるのがデザイナーの役割であると思っている。デザイナーの仕事は絵を描いて、モックアップを作って終わりではない。
「デザイナー=仕上げに色や形を考える人」ではない
ここまで読んでいただいて、いかがだっただろうか? クルマの開発プロセスの中でデザインは広い範囲で関わりがあることに興味を持っていただけたら幸いである。
クルマ関連の開発ではさすがにないが、プロダクトデザインの仕事をしていると、残念ながらまだまだ「デザイナー=仕上げに色や形を考える人」という狭い認識に出会うことが少なくないのも現実だ。
形や色でどういう見せ方にするかということだけでなく、何を作るのか、なぜ作るのかという根本的な部分から、どう作り運用するのかというところまで、あらゆるプロセスでデザイナーが関わる方が商品性をより高めることができる。
この連載では「クルマとデザイン」ということをテーマに置いているが、デザインを解説するというよりは、モノづくりの上流工程に関わるマネジメント層やエンジニア、最終的な意思決定者である経営者といった方々に「デザインを使う」ということへ興味を持ってほしいという意図も持ちながら書いている。ご自身の業務でも、積極的にデザイナーを巻き込んでみることをぜひお勧めしたい。
Profile
林田浩一(はやしだ こういち)
デザインディレクター/プロダクトデザイナー。自動車メーカーでのデザイナー、コンサルティング会社でのマーケティングコンサルタントなどを経て、2005年よりデザイナーとしてのモノづくり、企業がデザインを使いこなす視点からの商品開発、事業戦略支援、新規事業開発支援などの領域で活動中。ときにはデザイナーだったり、ときはコンサルタントだったり……基本的に黒子。2010年には異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。最近は中小企業が受託開発から自社オリジナル商品を自主開発していく、新規事業立上げ支援の業務なども増えている。ウェブサイト/ブログなどでも情報を発信中。
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