ホンダとマツダが語った「“使えるクラウドCAE”実現に必要なこと」:CAE事例(3/3 ページ)
日本自動車工業会のCAEクラウド調査タスクのチームは、MSCのユーザーイベントにおいて、クラウドCAEに関する調査の経過報告を行った。クラウドプロバイダーやソフトウェアベンダーとのディスカッションを重ねるとともに、セキュリティの調査やベンチマークなどを実施してきたという。
オンプレミスの方が高速だった
講演の後半では、マツダ ITソリューション本部 エンジニアリングシステム部 CAE/CATグループ リーダーの鐡本雄一氏が、各クラウドでのベンチマーク結果やソフトウェアベンダーへの要望などについて紹介した。
ベンチマークでは、クラウドサービスはアマゾンのAWS、マイクロソフトのAzure、IBMのSoftlayer、富士通のTCクラウドの4つについて、マツダのオンプレミス環境とともに検証した。MSC Nastran、LS-DYNA、STAR-CCM+、ANSYS Fluentの4本のソフトウェアについてベンチマークを行い、講演ではそのうちMSC Nastranの結果について報告した。解析の種類はSOL111、モーダル周波数応答解析をそれぞれ2、4、8並列で実施した。モデルにはマツダのSUV「CX5」のホワイトボディ、自由度は480万自由度のものを使用した。
4つのクラウドおよびオンプレミスで解析したところ、全ての並列数においてオンプレミスが一番速いという結果になった。なおクラウドはオンプレミスより10%程度遅いという程度で、この差については重要視していないという。全てのクラウドがオンプレミスに対して遅かった理由については、CPUクロックの差が支配的だと考えられるという。今回Nastranのベンチマーク用に提供された環境にはかなりばらつきがあったとのことで、そもそもクラウドで提供できるラインアップに制約があり、一番オンプレミスに近いと考えられる環境が用意されたが、ばらつきがあるのが現状だということだ。
同じSOL111でもモデル規模が大きくなったり対象周波数帯を増加させることで振る舞いは大きく変わると考えられる。そのためその都度事前にハードウェアリソースの消費具合を確認する必要があるという。またSOL101や111、200それぞれほぼ他のソフトウェアと言っていいくらいの振る舞いになるため、Nastranがクラウドで動くといっても、詳細はその都度検討する必要があるということだ。
SaaS形態での提供を要望
全体の活動を通して、MSCに対しては以下のような要望が出てきたということだ。第1に、素早い利用開始のため、SaaS形態で提供してほしいという。環境構築にかなりの時間を要するため、トータルで考えると、ビジネスのスピード感が出づらいということだ。
第2には、クラウドベンダーに対する支援体制を強化してほしいという。今回の活動に関しても、クラウドベンダーはNastranに関する知見がほぼない状態からスタートしている。そういった状態がベンチマーク結果にも反映されているのだろうという。
第3に、クラウド向けライセンスサービスのラインアップの拡大やより高い柔軟性を求めた。プリペイド式ライセンス形態やライセンス発行の効率化など、よりスムーズなクラウド利用が可能となるような形態がなければ即時利用は難しいという。
最後に鐡本氏は、「時間をお金で買うのがクラウド利用だと考えられる。ただあまり乱発すると、コストが何に掛かっているか見えづらくなる。クラウド利用の際は開発予算を経費で使用すると思う。この場合は全体感のない投資につながりかねない。なぜクラウドなのかを考えながら使う必要がある」と語った。また「ITベンダー全体、そしてエンジニアも含めて一体となってクラウド環境の最適化を図らなければ、真の意味でクラウド活用がうまくいくことにはつながらないだろう」と述べた。
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