マスコミが言う「トヨタ生産方式は重大災害に弱い」は本当なのか:鈴村道場(2)(1/5 ページ)
トヨタ生産方式の達人・鈴村尚久氏による連載コラム「鈴村道場」。今回は、重大災害による工場停止をテーマに、製造業が重大災害に対してどう取り組むべきかについて解説する。
2016年1月の愛知製鋼工場事故による生産停止、そして同年4月に発生した熊本の震災による生産停止が記憶に新しいですが、グローバル化の進展により世界各国で重大災害が起こる頻度は年々増加しております。もはや重大災害は起こるものとしての備えが必要であり、自動車をはじめ日本の製造業が重大災害に対してどのように対応すべきかについては大変重要な事柄だと思います。
今回は、重大災害による工場停止をテーマとして、製造業が重大災害に対してどう取り組むべきかについて解説します。
重大災害発生に対し、工場停止することはいけないのか
トヨタ系の工場が停止するとマスコミが鬼の首を取ったかのごとく「トヨタ生産方式の弱点が露呈した」と指摘します。結論から言いますとこれは「いけないこと」ではなく、「健全性をあらわしている」のです。重大災害が起こった時に止まらないのであれば常に過剰な在庫を保有していることになります。何年に1回起こる災害に対し、生産余力の確保の目的で在庫を持つために掛かる付帯費用は莫大になります。
ですが、普通の会社は物を倉庫にしまう。次にそこから物を払い出す。そのために自動倉庫をITで制御する。なぜ必要になるのか? それは不必要なものを買うからです。トヨタ生産方式では、例えば組み立てメーカーにタイヤを運ぶ際にはライン脇までトラックが運びます。これを同期化といい、今は当たり前のこととなっています。JIT(ジャストインタイム)の1つの形態です。
エンジン、トランスミッション、エアコン、タイヤ、シートなどは同期化しており、順序引きをしています。この方式だと倉入れ、倉出しがいらない。従って、「倉庫がいらない」→「管理費はゼロ」→「キャッシュを蓄える」ことができる。また、在庫を抱えるとシリーズの打ち切りの時に膨大な工数をかけて数を数えて在庫消費ポイントのコントロールをすることになってしまいます。
トヨタ生産方式では余分な在庫は保有しないことを前提とした考え方にのっとっています。言い換えますと、トヨタ生産方式では「非常時はラインを止めろ」というのが正しいのです。それは原因を探って皆が認識し&必死で対策するためにやっています。非常時に現地現物を見て、真の要因を明確にして確実な対処を行うためであり、再発防止につなげることが最終目的なのです。ただし、勘違いしないでいただきたいのは「ラインが止まった」でなく、「ラインを止める」ということです。
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