2030年に走行距離500kmの電気自動車を、NEDOが180億円の新規事業をスタート:電気自動車(2/2 ページ)
新エネルギー・産業技術総合開発機構は、走行距離500kmの電気自動車を実現可能な車載用蓄電池の開発に着手する。2030年をめどに、リチウムイオン電池よりも高いエネルギー密度500Wh/kgを実現可能な“革新型”蓄電池を自動車に採用できるようにする。自動車メーカーや電池メーカーが実用化に取り組める段階まで電池セルの仕様を明確にする。
2009年から、足かけ11年の取り組み
“革新型”蓄電池を手戻りなく効率よく開発するため、2009年度までの革新型蓄電池先端科学基礎研究事業で確立した解析技術を活用する。同事業では、ビームライン解析技術の高度化や、電池を分解せずに充放電の様子を解析できるオペランド解析技術の開発に取り組んだ。
ビームライン解析技術の高度化では、空間分解能を3倍に、表面深さ分解能を5倍に、時間分解能では10倍に精度を向上させた。これにより、電池を分解せずに充放電中の反応の様子を詳細に分析することができ、部分的な劣化や反応の均一さなどを検証可能になる。
2012年に放射光ビームラインはSPring-8(兵庫県佐用町)に、中性子ビームラインはJ-PARC(茨城県東海村)に蓄電池専用の設備を設けた。これらは「今のところ世界初の解析技術。しかし、これから各国の研究拠点が同様の解析技術を持つだろう」(NEDO)としている。
これらの高度な解析技術を活用することにより、これまで実用化されていない亜鉛空気電池/ナノ界面制御電池/硫化物電池が持つ課題を解決し、自動車メーカーや電池メーカーの製品化を後押しする。
アニオン移動型電池の亜鉛空気電池は高容量/長寿命な亜鉛極や高活性/高耐久性の空気極の開発が、ハロゲン化合物のナノ界面制御電池は電解質材料やアクセプター、電極や電解質の界面形成技術の開発が検討事項になる。
カチオン移動型電池のうち、硫化物電池は高容量/高出力の正極材料の開発が、コンバージョンのナノ界面制御電池は高容量な正極材料と粒径/形態の制御が課題になる。
2030年に走行距離500kmの電気自動車が出るとは限らない
研究開発は、京都大学を集中拠点に産学で連携する体制で行う。プロジェクトリーダーは、京都大学 教授の松原英一郎氏が務める。京都大学や産業技術総合研究所を集中拠点に、全国の16大学をサテライト拠点とする。
集中拠点には、ソニー、トヨタ自動車、豊田中央研究所、日産自動車、パナソニック、日立化成、日立製作所、日立マクセル、本田技術研究所、三菱自動車などから出向/出張する形で企業が参加する。
NEDOが2020年に“革新型”蓄電池の実用化にめどをつけても、2030年に走行距離500kmの電気自動車が出るとは限らない。「走行距離500kmというのは、あくまで電池開発の目標にすぎない。走行距離500kmの電気自動車を売るか、それがお客さまに必要とされるかは別の話だ。走行距離が長くなっても、コストをお客さまが負担してくれるかどうか。電気自動車の位置付けはあらためて考えていく必要がある」(本田技術研究所)と見ている。
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