自動車メーカーも取り組み始めた取扱説明書Web化の意味:製造業ドキュメンテーションの課題(1)(2/3 ページ)
製造業における、設計書や取扱説明書といった「ドキュメント」の作成は、多くの企業で属人的手工業の状態のままである。本連載では、さまざまな識者が「製造業ドキュメンテーションの課題」を明らかにするとともに、その解決を模索していく。第1回は、「取扱説明書」「サービスマニュアル」に代表される「マニュアル」を取り上げる。
デジタルメディアにおける制作技術とコンテンツ可用性の課題
ドキュメントは、紙やPDFからWeb化/電子化へ移行している。タブレット端末やスマートフォンの普及がその流れを加速している。
国内のWeb化/電子化の取り組みは海外に比べて進んでいる。しかし加速しないのは、Webが、主体となる紙の付属品の位置付けでしかなかったからだ。取扱説明書は製品の一部であり製造物責任の対象だ。製品のリリース後、製品の耐用年数の間は確実に提供しつづけることが義務付けられる。これを定めたガイドラインが「ISO/IEC Guide37:1995」である。そして、同ガイドラインの耐用年数の要件を簡単に満たす手段が、紙に印刷/製本されたマニュアルだ。
同ガイドラインでは、取扱説明書を製品の付属品(すなわち同梱)として提供すべきと規定しているが、2012年に発行された新しいガイドライン「ISO/IEC Guide37:2012」、「IEC82079-1」は、一転して取扱説明書の製品添付を義務付けていない。かつ、提供媒体としてWebを積極活用すべきと明示した。
以降、Webを主体に考えるメーカーが増えてきた。例えば自動車の場合、分厚い紙マニュアルをダッシュボードのグローブボックスに入れておくのが一般的だった。しかし、ホンダの2人乗り軽スポーツカー「S660」は、小型スポーツカーの特徴を出すためダッシュボードが小さくグローブボックスの容積にも制限がある。そこで、この分厚い紙マニュアルを省くことを検討し、実際にオーナーズマニュアルをWeb化した。
また、マツダの2人乗りスポーツカー「マツダ ロードスター」も同様の考え方に基づき、オーナーズマニュアルをWeb化している。今後両メーカーは、例年厚さを増す紙のマニュアルのページ数を減らし、Webマニュアルを充実させていく方針だ。
マニュアルのWeb化で必要になっていくのが、DTP(デスクトップパブリッシング)とは異なる製作の手法とプロセスの確立だ。Microsoftの「Word」やAdobeの「FrameMaker」「InDesign」を利用する従来の紙マニュアルの製作現場では、ライターが原稿を書き、オペレーターがDTPすれば終わる書籍の製作とは全く異なる、複雑なプロセスが存在する。前版の流用を前提とした改訂作業、関連部門へのレビュー、多言語翻訳、OEMでのコンテンツ流通、DTP/PDFデータならではのデータフローが確立されている。しかしWebの世界では、まだこれらは確立されておらず、これからの課題だ。
デジタルファーストのための制作フロー。従来の印刷/製本を目的としたDTPのフローに、電子データを作成するための変換作業を加えたものが、紙の書籍と電子書籍をハイブリッドで販売している場合の制作方法だ(①)。はじめからePUBオーサリングツールを使って電子データを作成するフローでは、印刷データの作成はDTPツールに立ち戻る(②)。XML/XHTMLを起点としたフローの特徴は、最終的な生成データをマルチアウトプットにしやすい(ワンソースマルチユース)というメリットがある(③)(クリックで拡大)
改訂作業、多言語翻訳、部門間の情報流通、OEMとのコンテンツのサプライチェーンなどを意識したマニュアルの作り方として、XMLベースの構造化言語による文書作成の規格がある。技術文書全般を対象としたDITAや、航空機/船舶を対象とする「S1000D」、学術系を対象とする「JATS」など、さまざま規格が存在する。これらの規格に沿ったマニュアル制作をサポートするコンテンツ管理製品(CMS:Content Management System)も多くのベンダーが提供している。
IEC82079-1:2012の発行によって、マニュアルは積極的にWeb化しやすくなったが、一方でコンテンツの可用性(閲覧の継続性の担保)という課題を抱える。Webの技術は陳腐化が速いため、10年後にWeb化したコンテンツを閲覧する技術が残っている保証がしづらい。その点、製本された紙や、PDFにいまだ一日の長がある。Web化/電子化を推進するための大きなテーマだ。
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