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HILSとは何かいまさら聞けないHILS入門(1)(4/4 ページ)

最新の高級自動車は200個ものコンピュータを搭載しているといわれる。ECU(電子制御ユニット)と呼ばれるこのコンピュータが、正しく動作するかどうかを試験するテスト装置として注目を集めているのがHILSだ。本連載では、HILSの導入や、HILSを使ってECUのテストを行うための基本的な知識の提供を目指す。連載第1回は「HILSとは何か」だ。

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HILSの構成

 HILSは、制御システムの機械系/電気系をコンピュータシステムに置き換えることによって実現できます。HILSと機能ブロックの対応は図7のようになります。コンピュータ上に作成するHILSプラントモデルは、制御システムの機械系/電気系の特性を実現することが求められます。

図7
図7 HILSが実現する制御システム(クリックで拡大)

 重要なことは、ECUから見た制御システムが、動的特性を含めて実システムと同じであることです。ECUは、燃料調節装置に出力してエンジン回転数を変化させ、その状態が回転センサー信号を通じてフィードバックされます。ここでHILSは、ECUの出力によって変化するエンジン回転数を計算して、回転センサー信号をインタフェース回路に発生させます。

 このように、HILS上に、ECU出力⇒プラントモデル⇒ECUへのフィードバック信号⇒ECUの制御ループを作ります。

HILSの歴史

 さて、ここでHILSの歴史を見ておきましょう。

 制御システムの開発のために、システムの振る舞いを実時間で動作するコンピュータで実現する手法をリアルタイムシミュレータといいます。リアルタイムシミュレータは、アナログコンピュータが主流であった1950年代かそれ以前から、フライトシミュレータや電力系統、大規模な機械装置の制御などで使われていました。

 その後1960年代にデジタルコンピュータの発達に伴って、アナログコンピュータとデジタルコンピュータを組み合わせた、ハイブリッドコンピュータを使ったリアルタイムシミュレータが使われるようになりました。自動車においても1970年に、車体運動のリアルタイムシミュレーションの例※1)があります。

 その後1970年代後半に自動車でもマイクロプロセッサを使ったECUがエンジン制御に適用されるようになり、1980年代になるとエンジン以外の制御にECUが広く適用されるようになりました。

 1980年代後半にはコンピュータが小型化され、試験計測に利用しやすいワークステーションやパーソナルコンピュータが普及してきました。これらを利用して個々の制御システムの開発に合わせて、ECUのテストにリアルタイムシミュレーションを利用したHILSが、開発/適用されるようになりました※2)

 1990年になると一般販売を目的としたHILSシステムが、 I/O回路やプラントモデル、マンマシンインタフェース用のバーチャルな運転コンソールをパッケージ化して市販されるようになりました※3)※4)

 1990年代後半になるとエンジンや車体のプラントモデル、2000年代には自動テストシステムツールが登場し、現在のHILSに至ります。



 今回は、HILSを考える上での前提となる電子制御システムとのかかわりからHILSとは何かを書きました。次回は、どのようにすればコンピュータ上にHILSを作ることができるのか、HILSの概要について考えてみたいと思います。

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→連載「いまさら聞けないHILS入門」バックナンバー

参照文献

※1)SAE Technical Paper 700155“A Hybrid Simulation of Vehicle Dynamics Subsystem”by N.O.Tiffany

※2)SAE Technical Paper 870336“Real Time Simulation for Application to ABS Development”by Deborah J. Kemph Delco-Mcraine ABS System Group and others

※3)平成4(1992)年3月日立造船技報第53巻第1号“リアルタイムシミュレータ(HISIM-3000の開発と適用”関野晋他

※4)dSPACE MAGAZINE 2008“Dr.Herbert Hanselmannインタビュー”


筆者プロフィール

高尾 英次郎(たかお えいじろう) 「HILSとTestの案内人」

1950年生まれ。岐阜大学機械工学科卒業。三菱重工で大型船のエンジン・推進装置などの修繕業務を担当の後、三菱自動車(現三菱ふそうトラック・バス)に転籍。エンジンの燃費向上・排出ガス低減研究、車両の燃費向上研究を10年余および電子実験、電子設計などを20年余担当。ITKエンジニアリングジャパンを経て、現在はHILSとHILS Testにフォーカスしたコンサルティングを行っている。

HILSとの関わりは、バス用の機械式自動トランスミッション開発中に、ECUのソフト検証用として1990年にMS-DOS PCを使ってHILSをゼロから自主開発して以来のもの。



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