ヒトの鼻腔機能はチンパンジーより劣ることを解明:医療技術ニュース
京都大学は、ヒトはチンパンジーなどに比べて、鼻腔における吸気の温度や湿度を調整する能力が劣っていることを明らかにした。この研究を通じて、ヒトとヒト以外の霊長類の鼻腔の気流や温度・湿度調整能力を比較評価する手法が確立された。
京都大学は2016年3月25日、ヒトはチンパンジーなどに比べて、鼻腔における吸気の温度や湿度を調整する能力が劣っていることを明らかにしたと発表した。同大学霊長類研究所の西村剛准教授らの研究グループと、北陸先端科学技術大学院大学の松澤照男教授らとの共同研究によるもので、成果は同月24日、米科学誌「PLoS Computational Biology」に公開された。
いわゆる原人と呼ばれるホモ属人類は、280万年から230万年前頃にアフリカで現れた。他の人類はチンパンジーのような顔つきだったが、原人は私たちのような平らな顔で、突き出した鼻も持っていた。鼻腔や鼻は、吸った外気の温度や湿度を調整する重要な機能を果たしている。原人の鼻や鼻腔は、外気の温度や湿度をしっかり調整できていたのだろうか。
今回、医・工・生物学融合研究グループは、ヒト(原人のモデル)と、チンパンジーとマカクザル(それ以前の猿人たちのモデル)の鼻腔における温度と湿度の調整能力を、鼻腔のデジタル3次元形状モデルを用いたコンピュータ数値流体力学(CFD)シミュレーションによって評価した。
まず、霊長類研究所でチンパンジーやマカクザルをコンピュータ断層画像法(CT)で撮像し、鼻腔のデジタルモデルを作成。それを元に、北陸先端科学技術大学院大学と共同で、CFDシミュレーションによる評価を重ねた。チンパンジーのシミュレーションは世界初だという。
その結果、ヒトは、チンパンジーやマカクザルに比べると、温度、湿度ともに調整機能がかなり劣っていることが分かった。また、特有の突き出した鼻は、それにはほとんど役に立っていなかった。
現代人の鼻の形状は、人種によってさまざまであり、それは住んでいる気候環境に適応した結果といわれている。そのため、これまで原人で突き出した鼻ができたのには何らかの機能的利点があると考えられてきたが、原人はそれ以前の人類と比べて、鼻腔の温度・湿度調整能力という点では劣化したと考えられる。
それでも生き残れたのは、平たい顔と同時にできた長い咽頭でさらなる調整が可能だったからかもしれない。長い咽頭はその後の音声言語の成立に大きく寄与するが、もともとの適応的意義は、この鼻腔機能の劣化の補償だった可能性もある。このような鼻腔と咽頭形態の相補的な進化によって、原人は、気候変動が激しい更新世を生き残り、さらに気候が厳しいユーラシア大陸へと進出することができたと考えられる。
この研究を通じて、ヒトとヒト以外の霊長類の鼻腔の気流や温度・湿度調整能力を比較評価する手法が確立された。ただし、シミュレーションモデル自体はヒト用のものを援用しており、今後、サル類でのより正確な性能評価をするには、サル類用のシミュレーションモデルを確立する必要がある。
それが確立できれば、今後、サル類の顔面や鼻腔形態の差異が、どのような機能的差異を生み、どのような環境適応を遂げた結果なのか、という進化プロセスを実証的に解明することができるとしている。
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