ルノーの新デザインコンセプト『サイクル・オブ・ライフ』はなぜ生まれたのか:クルマから見るデザインの真価(8)(2/5 ページ)
フランスの自動車メーカーであるルノーは、新たなデザインコンセプト『サイクル・オブ・ライフ』のもとでクルマづくりを進めている。1990年代以降、変化してきたフランス車の『らしさ』や、日本市場でのルノー車の受け入れられ方とともに、ルノーが『サイクル・オブ・ライフ』でどのように変わろうとしているのかを読み解く。
「ルノー・デザイン」の変化
これまでのルノーのクルマのデザインというと、個々のモデルでのキャラクターを出すというところにおいては特徴的なところもあったが、ルノーブランド全体にわたって共通する意匠の要素といったものはあまりなかったように感じる。
ルノー・デザインといえば、1987〜2009年まで長きにわたり同社のデザイン部門を率いてきたパトリック・ルケマン氏の存在が大きい。ルケマン時代になって以降、ルノーのデザインはトレンド・セッター的に注目を大きく集めるモデルを次々と生み出してきた。
初代トゥインゴしかり、「メガーヌ・セニック」や「メガーヌII」しかり、「スパイダー」しかり、異形ともいえる「アヴァンタイム」しかり。独創的なデザインの開拓はルノー・デザインの活性化のみならず、デザイントップを役員として処遇し企業戦略にデザインを活用するという点でも注目を集めた。
その一方で、佐藤氏のように販売の現場に近い立場からすると、デザインの方向性が散漫だというイメージもあったという。これには、フランスから遠く、ドイツブランドのシェアが幅を利かすという日本の輸入車市場でのルノーという立ち位置もあったと思われる。
そして2009年、ルケマン氏に変わってルノー・デザインのトップに就いたのが、ローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏である。ルノーの新しいデザイン・アイデンティティーづくりという使命を受けての就任であったといい、佐藤氏によると「その背景にはルノーの対象市場がフランス国内を見ていれば良かった状態から、グローバル化していったことと大いに関係がある」という。
すなわち、フランス国内では菱形のバッジがついていればルノーだと分からない人はいないから、個々のモデルの特徴を出していくルケマン氏の方針は合っていた。しかし、対象市場が広がり、ルノーの認知が高くない市場へも出て行くに従って、個々のクルマの特徴以上に、ブランドイメージの認知や浸透の必要性が高まってきた。一貫性のあるブランドとしての『らしさ』やイメージを各モデルに備えた商品に落とし込むということが、従来以上にデザインに求められるようになった。
新たなルノーのアイデンティティーを表現していく上で、ヴァン・デン・アッカー氏が注目したのは、ルノー社内で昔から使われてきた『ヒューマン・セントリック』という思想だ。ここから人々の人生のライフステージ/ライフサイクルごとに最適なクルマをデザインする『サイクル・オブ・ライフ』というコンセプトが導き出された。
メーカーとしての技術力などクルマのハードウェアの特徴や志向などから訴求ポイントを導いたのではなく、使う人の人生からというのが興味深いと感じた第一印象だったが、ルノーブランドが抱えるラインアップの広さを考えると、この方が都合が良かったということもありそうだ。日本に導入されているモデル数こそ少ないが、本国では大型の「タリスマン」から小型のトゥインゴや商用車までをそろえる、フルラインアップの自動車メーカーなのである。
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