設計者教育と3D CAD:3D設計推進者の眼(6)(2/3 ページ)
機械メーカーで3次元CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者から見た製造業やメカ設計の現場とは。今回は設計者教育と3D CADについて語る。
3Dモデリングのスキルを高めること
単に「○○の3D CADを使えます」というよりも、「○○の3D CADの、こんな機能を使えます」という方が素晴らしいと思いませんか。
先ほど、機械設計で必要ではない機能について、一般的には重要視しなくとも良いとも話しました。ただし、メカ設計者がサーフェスやモールド、シートメタル機能などを習得することが、何も悪いことだと言っているのではありません。3D CADの操作能力を上げることは、今日の設計スキルの1つともいえる、3D CAD操作能力のアップにもつながります。制限が加わったモデリングではなく、一様な運用ルール内での自由なモデリングは、設計品質を高めることにつながるでしょう。
現在、私は社内にCADのヘルプデスクを作ろうと進めています。あくまでも設計視点を持ったヘルプデスクです。ここでは、きちんと操作教育を受けたものが、質問を受けて、回答を行います。内容によっては、3D CADベンダーのサポートを受けることもあるかもしれません。
質問の内容は、パーツモデリング・アセンブリ・2D図面化、部品表作成、生産システム連携、3Dビュワー活用、PDM運用など多岐にわたるでしょう。これらのQ&Aの内容は社内で蓄積されて共有できるようにします。これで、同様な問題に何度も悩むことはなくなり、度重なる不具合についてはCADベンダーに対して機能改善を求めることも可能となります。
そのためには、パッケージ依存したヘルプデスクではなく、3D CADのプロフェッショナルとしてのスキルを身に付けたヘルプデスクが必要となります。
ただし、ここまででお話しした3D CADのスキルというものは、あくまで重要な設計スキルの1つにすぎないのです。
設計者教育について
「設計者のスキルが低い。上手く成長していない」という声を聞くことがあります。
私の場合、設計の勉強となると、中学校での「技術」の授業での「製図」が最初でした。木製の製図板と木製のT定規、ケント紙を用いた製図です。次は大学での設計製図でした。機械設計法の教科書は今でも会社の書棚にあります。ここで徹底的にJIS規格の製図を学びました。当時はCADではなく、ドラフタに向かった製図でした。
図学や、機械工学系であった私は、四力(よんりき)と呼ばれる、「材料力学」「流体力学」「熱力学」「機械力学」も学びました。今の私は、CAE(解析)も行いますが、過去の私に語りかけることができるのであれば……、「おいっ! 四力、もっと勉強しろよ!」と言うことになるでしょう。
四力の知識を用いた上で、CADを用いてボイラーの設計もしました。しかし、当時のCADは今と違ってコマンド入力するタイプのもので、設計物の製図状態は、校内に1台しかない静電プロッタで出力するまでは分かりませんでした。今日の大学生には理解できない世界でしょう。先にお話ししたように、高校生でさえ3D CADを用いて設計を学ぶ時代なのですから。
学生時代に設計プロセスである設計計算によって最適化の手法を学び、JIS製図によって技術情報を図面として表現することを学んだことは、機械設計者になった私にとって糧となりました。。
また、企業に入社後、社内の先輩や、外部の加工会社といったさまざまな取引先の方々に教えていただいたこと、社外の講習会に参加させていただいたことによって、設計者としてさらに成長できるようになったわけです。
これを考えると、「設計者のスキルが低い、上手く成長していない」という問題は、人材を受け入れた後に、企業側が上手く指導できていたのかということになるのではないでしょうか。そこで、私は次のような設計者教育プランを進めています。
入社した社員をいかに成長させるかという視点において、実務のOJTも必要ですが、原理原則、理論を学ぶことも必要です。
まずは、JIS製図法、公差設計、強度設計、機械材料、要素設計、信頼性設計、加工法という「機械設計7つ道具」を学びます。この「機械設計7つ道具」ですが、教育体系図を見て分かるように、能力としては、能力、知識の幅として基礎となる部分です。
機械設計7つ道具
- JIS製図法:JIS製図法に基づいた正しい図面の描き方を学びます
- 公差設計:品質とバラツキ、寸法公差、幾何公差、互換性、不完全互換性などの公差の計算方法、工程能力指数について学びます
- 強度設計:荷重の種類、力の単位、応力とひずみ、静定、不静定問題、曲げ、ねじり問題といった機械強度設計上必要な内容を学びます
- 機械材料:機械材料の選定に必要な知識について学びます
- 要素設計:ねじの用途と種類、歯車の用途と種類、歯車の強度、軸受の用途と種類など機械要素の設計方法について学びます
- 信頼性設計:機械の寿命、故障のパターン、FMEA、FTAなど信頼性手法について学びます
- 加工法:機械加工法について学びます
3D CADを含めた7つ道具のレーダーチャートがきれいな八角形を描ければ、設計者の基本的なスキルとしては十分でしょう。
教育内容は、ベテランの諸先輩方には当たり前のことかもしれませんが、設計業務を急ぐ現場においては、また会社での慣習に倣っていては、必ずしも十分とは言えないのではと思います。
これは人・金のパワーのある大手企業では力を入れているけれど、パワーのない中小企業では力を入れることができていない内容といえるかもしれません。大手企業であっても必ずしも十分ではない……かもしれませんが。
3D CADの運用を考えた場合に、「JIS製図法に基づいた正しい図面の描き方を学びます」ということに疑問を感じる方もいるかもしません。
私がここで目指すのは、正しい図面作成です。図面とは紙図面を指しているだけではありません。3D単独図、簡易2D+3Dデータ、ペーパーレスでの2D図面、紙による2D図面など、3Dデータ運用においては、段階的な情報伝達の手法がありますが、全ての基本となるのはこの「正しい図面の描き方」にあるのではないでしょうか。
また、公差設計においては、かつては当たり前のように行われていた公差の割り付けが行われていないということをよく耳にします。
「なかなかうまくいかぬ、公差設計推進の理想と現実」で書いたように公差設計は設計の本質です。基本を習得することは必須です。加工法においては、設計者が必ずしも理解しているわけではない、理解していない人の数も増えたという実感があります。3D CADでは加工できないような部品もモデリングできてしまいます。強度設計・正しい機械材料と加工法を理解した上での部品設計・モデリングが必要です。
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