3Dプリンタ製の樹脂金型が自動車製造を革新!? ハイテン材のプレス加工も:オートモーティブワールド2016(1/2 ページ)
豊通マシナリーは「オートモーティブワールド2016」において、3Dプリンタで製造した樹脂製金型による金属プレス加工技術「デジタルモールド・プレス」について展示デモを行った。
豊通マシナリーは「オートモーティブワールド2016」(2016年1月13〜15日、東京ビッグサイト)内の「第2回 自動車部品加工 EXPO」に出展。ストラタシスのPolyJet 3Dプリンティング材料である「デジタルABS樹脂」を用いた、樹脂型による金属プレス加工技術「デジタルモールド・プレス」について展示デモを行った。
「デジタルモールド」とは、スワニーが考案した最新の加工技術。3Dプリンタで造形した樹脂製の金型を、射出成形、プレス、メタルインジェクション(MIM)へと応用し、量産材料を用いた試作部品の製作や、小ロット部品の製造を実現するものだ。樹脂型を用いたデジタルモールド・プレスの検証では、3000〜8000ショットまで実績があり、「量産」での利用も見え始めているという。実際、ある自動車メーカーではデジタルモールド・プレスの本格的な検証も行われているそうだ。
ストラタシス製3Dプリンタの販売や愛知県刈谷市にある3D造形工房で「3D造形受託生産サービス」などを手掛ける豊通マシナリーは、デジタルモールド・プレスの技術を有する中辻金型工業と協力し、自動車業界で主流となりつつあるハイテン材(高張力鋼板)やアルミ材などを用いた加工サンプルを展示。自動車業界における新たな部品加工の手法の1つとして、デジタルモールド・プレスのメリットを来場者に訴求した。
デジタルモールドの実現を支える「デジタルABS樹脂」
デジタルモールド・プレスに用いられる樹脂製の金型は、ストラタシスが開発したデジタルABS樹脂で作られている。金型そのものが3Dプリンタで作られているという製造方法の違いの他にも、この樹脂製金型はPolyJet 3Dプリンティング技術により、表面が硬く、内部が柔らかいという独特の靭性を備えており、従来の金属金型にはない幾つかのメリットがあるという。
まず、金型製作にかかる時間の大幅な削減だ。一般的な金型であれば、金型の設計、マシニングセンタなどによる加工、調整・仕上げなどで多くの手間と時間が取られてしまう。しかし、デジタルモールドであれば、数日で金型製作が完了してしまう。ストラタシス製3Dプリンタによる高精度な造形とデジタルABS樹脂ならではの表面特性により、造形後は磨きなどの調整、プレス加工油なしにそのままプレス加工できてしまうという。「また、従来マシニングセンタでは製作が難しかった複雑な形状の金型も3Dプリンタであれば簡単に作れてしまう」と説明員。
プレス加工の工程を大幅に削減できる点もメリットとして挙げられる。通常の金型を用いたプレス加工の場合、材料の特性にもよるが(1)丸める、(2)軽く形状を付ける、(3)きっちり形状を付けるといった具合に、それぞれの段階で型を変えて、複数回プレス加工する必要がある。しかし、「これまでのデジタルモールド・プレスの検証では、アルミやステンレス、軟鋼(鉄)であれば単純成形加工(何もしないで押すだけ)1回、あるいは通常よりも少ない回数できちんと形状が出せることが分かった。これもデジタルABS樹脂の特性によるものだと考えられる」(説明員)。
また、品質についても十分な結果が期待できる。例えば、曲げ加工でもデジタルモールド・プレスであればショックライン(傷)が入らないという。加えて、絞りやエンボス加工を行う際に発生してしまうひずみも最小限に抑えられるとのことだ。「デジタルモールド・プレスであれば成形傷が発生しづらいため、あらかじめメッキ処理や塗装処理が施された材料をプレス加工することも可能だ」と説明員。
さらに、同一の型で複数材料をプレスできる点も、これまでの金型にはない特長といえる。従来は、材料の特性などに合わせて、型を個別に用意する必要があり、適切な材料を検証したい場合など金型製作に掛かるコストや期間がネックになっていた。しかし、デジタルABS樹脂を用いた樹脂型は独特な靭性を備えており、材料側の物性に大きく左右されずに加工が行えるため、「割れやすいとされるアルミでも問題なく、1工程で加工できる」(説明員)とのことだ。
そして、金型の修復や調整に関しても手間とコストが大幅に削減できるという。プレス加工を繰り返しているうちに、金型そのものが割れてしまったり、一部がへたってしまったりすることがある。こうした場合、金型の修復・調整が必要になり、その間ラインがストップしてしまう。しかし、デジタルモールド・プレスであれば樹脂型を3Dプリンタですぐに製造できるため、待ち時間が大幅に削減できる。「また、金属製の金型の場合、プレス加工を繰り返しているうちに磁気を帯びてくるため脱磁や、プレス加工油の脱脂なども必要になるが、デジタルモールド・プレスであればそうした作業も不要になる。樹脂製なので経年劣化などが気になるかもしれないが、古くなったら3Dプリンタで再出力すればよく、製造が終了した金型を倉庫などにずっと保管しておく必要すらなくなる」(説明員)。
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