世界初の“凍る”鋳造技術を実用化! 業界常識を覆した町工場の“熱い”挑戦:イノベーションで戦う中小製造業の舞台裏(4)(4/5 ページ)
自社のコア技術やアイデアを活用したイノベーションで、事業刷新や新商品開発などの新たな活路を切り開いた中小製造業を紹介する本連載。今回は、世界で初めて「凍結鋳造システム」の実用化に成功した株式会社 三共合金鋳造所の取り組みを取材した。
新素材と持ち前の技術で顧客のさまざまな要望に応える
KSハードは金属の粘り強い性質と、セラミックのような耐摩耗性、耐食性、耐熱性を併せ持つ合金だ。さらに炭素やケイ素、マンガン、クロム、ニッケル、バナジウムといった合金の配合を変えることで、製品の用途や形状に合わせ、最適な鋳造材料を作ることができる。
例えば湿度の高い場所と乾燥した場所では、同じ製品(部品)でも摩耗の仕方や耐食性がかわってくる。特に摩耗現象は使用条件によって千差万別の現れ方をする。砂と泥をプロペラで攪拌(かくはん)する場合、どちらが摩耗しやすいかは容易に想像できるだろう。ところが同じ泥でも成分の違いで、摩耗現象は大きく変わってくるというのだ。
例えば、地方都市と東京では汚泥の成分が違う。pH値なども異なるため、同じ材質のプロペラでも製品としての耐久性が大きく違ってくるそうだ。他にも温泉地の汚泥は、硫黄分が多いため耐摩耗性はそこそこでもいいから、耐食性が強い材質が適している。また、海水の場合は塩分だけではなくプランクトンの存在も問題となる。プランクトンは金属を食べるからだ。
こうした顧客の細かい要求に対して、どのような条件下で使用するのかヒアリングした上で、最適な性質の素材や形状の提案を行えるのが三共合金の強みだ。もちろんオーダーメイドの素材を使うと、割高になる。しかし、産業機器の設備や部材の用途や条件に合わせた素材で一度鋳物部品を作れば、部品の性能や寿命を向上するとともに、結果的にランニングコストの低減にも寄与できる。
既にKSハードは化学、石油、精鉱、鉄鋼などのさまざまな業界で使用されている。「部品の寿命が2倍になるのなら、価格が10倍でも欲しいという企業もあります」と松元さんはいう。
今後の納入先として可能性を感じているのは、食品関係だという。食品を作る工程で部品が摩耗するということは、食品に異物が混入することを意味する。もちろん微量ではあるのだが、昨今は衛生管理の基準も厳しくなっており、あまり望ましいことではない。耐摩耗性の高い部品が求められるのは、当然だろう。食品業界は規制が厳しいため、新規素材の参入はハードルが高いが、産官学連携や大手企業とも協力してニーズを広げていきたいと考えているそうだ。
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