「SKYACTIVエンジン」は電気自動車と同等のCO2排出量を目指す:マツダ 人見光夫氏 SKYACTIVエンジン講演全再録(6/7 ページ)
好調なマツダを支える柱の1つ「SKYACTIVエンジン」。その開発を主導した同社常務執行役員の人見光夫氏が、サイバネットシステムの設立30周年記念イベントで講演。マツダが業績不振にあえぐ中での開発取り組みの他、今後のSKYACTIVエンジンの開発目標や、燃費規制に対する考え方などについて語った。その講演内容をほぼ全再録する。
電気自動車は本当に環境に優しいのか
日本の発電時の排出原単位はかつては0.47kg-CO2/kWhだった。現在は0.57kg-CO2/kWhだ。中国は日本よりも高く0.77kg-CO2/kWhである。この状況で電気自動車の普及を進めようとしているらしい。この排出原単位を前提にガソリンエンジン、ディーゼルエンジンと電気自動車を比較してみよう。
アクセラの燃費は平均5.5l/100km。同じクラスの車両で100km走らせると、ガソリンが5.5l、軽油で5l、電力は21.2kWhが必要だと仮定する。電気自動車が環境に優しいのは、発電時にCO2を出しても電力消費の効率がいいからだというロジックだ。カタログで比較しても意味がない。
平成25年(2013年)に自動車が消費した燃料は、ガソリンが5680万klで、全て燃やすと1億3200万トンのCO2が出る。これを電気自動車に置き換えて電力換算すると2190億kWhだ。同様に、軽油の消費量は2435万klで、CO2排出量に換算すると6400万トン、電力に換算すると1032億kWhだ。ガソリンと軽油で1億9600万トンのCO2を排出している。これは3222億kWhの電力消費に相当する。
3222億kWhの電力を使うには、送電と充電で1割程度ロスがあると考えて3580億kWhの発電が必要だ。3580億kWhの電力を発電すると、排出原単位から計算して、2011年には1億6800万トン、2015年には約2億トンのCO2を排出することになる。2015年現在では電気自動車の方がCO2排出量が多いことになる。東日本大震災前の排出原単位でみても、15%程度の改善でしかない。
現状の発電方法では、電気自動車に置き換えてもCO2排出量の改善に意味があるとはいえない。電気自動車のCO2排出量は、内燃機関の改善で軽く追いつける気がする。
CO2排出量を1億トン削減するには
クルマを電気自動車に全て置き換えるのは現実的ではない。トラックなど貨物輸送では難しいため、乗用車が中心になるだろう。運輸で使う燃料の半分を、再生可能エネルギーで発電した電気自動車で肩代わりするとどうなるだろうか。
先述した3580億kWhの半分である1790億kWhのうち、太陽光で85%、風力で15%と分担するには、太陽光で1520億kWh、風力発電で270億kWhを発電しなければならない。これを実現するには、太陽光で1億3000万kW、風力で1500万kWの発電能力の増強が必要になる。また、人々が家に帰ってから一斉に7時間かけて充電するとなると、同じ時間帯に需要が集中する。電気自動車が増えれば増えるほど、再生可能エネルギーのバックアップが欠かせない。
4000万台以上の電気自動車、何万カ所もの急速充電器、数千万台の家庭用充電器があって、これでようやく1億トンを減らせる。
同じ効果が、内燃機関を30%改善し、石炭発電所の半分を天然ガス発電に切りかえれば出せる。または、石炭発電を天然ガスに切り替えるだけでCO2排出量は減らせる。なぜ電気自動車から始めようとするのか。
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