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「SKYACTIVエンジン」は電気自動車と同等のCO2排出量を目指すマツダ 人見光夫氏 SKYACTIVエンジン講演全再録(3/7 ページ)

好調なマツダを支える柱の1つ「SKYACTIVエンジン」。その開発を主導した同社常務執行役員の人見光夫氏が、サイバネットシステムの設立30周年記念イベントで講演。マツダが業績不振にあえぐ中での開発取り組みの他、今後のSKYACTIVエンジンの開発目標や、燃費規制に対する考え方などについて語った。その講演内容をほぼ全再録する。

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商品開発の悪循環を断ち切る

 商品開発にもたくさんの課題があった。量産が遅れる、コストが高い、品質問題の多発、技術力や、やる気の低下、人材育成の遅れなど、恐らくモノづくりに共通のテーマかもしれない。マツダの一番の原因は開発のやり方にあった。

商品開発の課題
商品開発の課題(クリックして拡大) 出典:マツダ

 一番ピンは、実機を試作してはテストを繰り返すことだ。問題が出るたびに試作して対処し、問題を検討しきれずに期日を迎えざるをえなかった。そうすると、品質問題が増えるし、コストを下げる余裕がなくなる。慢性的な工数不足で、次のプロジェクトへの人の配置が遅れてしまう。そして量産がもっと遅れる。

 この悪循環の中では、誰もが失敗を他人の責任にしようとし、仕事が増えるのを嫌がるようになる。こんな環境で技術力が上がるわけがない。働いていて楽しいわけがない。この悪循環の中では、先行開発に人を割くことはあり得なかった。実機に頼らない開発にしないと、悪循環は解決できない

商品開発に関わる課題の相関図CAEの役割 商品開発に関わる課題の相関図(左)とCAEの役割(右)(クリックして拡大) 出典:マツダ

 先行開発も、CAEが充実していればどんどんアイデアを出せたはずだ。アイデアを出してもらう上で重要なのは、思い付いてすぐ検証できるようにすること。結果が分かるのが半年後なら、誰も自分のアイデアを確かめようとしない。また、マツダには実験するための設備と場所が圧倒的に足りなかった。燃焼を研究しようにも、十分な数の単気筒エンジンもない。

 R&Dの責任者に「実験を革新したい、CAE育成に全てベクトルを向けるので装置を買ってほしい」と頼んだ。提案を認めてもらうことができ、CAEの強化に乗り出せた。

 従来、解析グループは商品開発から計算を受託していた。頼まれたものを計算するだけで、開発にはわざわざ関わらず、検証データも取らなかった。受身の仕事で不満もたまっていた。わずかしかいないメンバーで、CAE能力アップのための仕事しようと伝えた。

 部内横断チームを作って全体でCAE精度向上に取り組んだ。開発に入り込んでもらうようにした。また、これまでは、とにかく人手が必要だからと商品開発にだけ新人を入れていた。しかし、先行開発にも人を回し始めた。解析グループに新人を入れながら少しずつ人数を増やしていった。

CAE開発が変えたこと先行開発の人員拡大 CAE開発が変えたこと(左)と先行開発の人員拡大(右)(クリックして拡大) 出典:マツダ

 制御の因子は4段階ある。圧縮比などからエンジン部品の形状までのつながりをCAE化し、CAE検証率をどんどん上げていった。CAE強化が間に合わなければ、SKYACTIVはうまくいかなかった。

CAEでつなぐ制御因子CAE開発が主体に CAEでつなぐ制御因子(左)とCAE開発が主体に(右)(クリックして拡大) 出典:マツダ

特性の共通化

 共通化はハード(ウェア)を対象とするのが一般的だ。マツダは特性の共通化を一番に掲げた。ハードよりも先に、特性の共通化だと考えた。ハードの共通化のメリットは、イメージできる。しかし、ハードから共通化すると、キャリブレーションや適合工数でものすごく時間がかかる。その適合の部分を楽にしようとした。開発を効率化するためだ。

マツダのコモンアーキテクチャ構想多大な工数を費やす適合作業 マツダのコモンアーキテクチャ構想(左)と多大な工数を費やす適合作業(右)(クリックして拡大) 出典:マツダ

 生産はハードの種類が増えると負担かもしれない。しかし、1車種でたくさん売れたことがない会社は、1ラインでたくさんの車種を流すのが世界一得意だ。エンジンのハードで共通化できる部分は限りがある。機能を重視するよう、意識を変えたかった。

 エンジンの適合開発の難しさは教え込むのが難しいことだ。エンジンの出来たては何も知らないロボットと同じ。トルクに対する点火時期、バルブタイミングの点火時期、最適なタイミングを決めていかなければならない。スロットルのモーター、吸排気バルブの動き方、ポンプの油圧、空気の流動、全てバラバラで定常状態では測れない。排ガスを増やさず燃費を落とさずに、トルクのつながるエンジンに仕立てるのが難しい作業になる。これらを共通化しようと決めた。

特性の共通化
特性の共通化(クリックして拡大) 出典:マツダ

 実機とCAEを活用して排気量に関係なく同じ燃焼特性を実現した。これまでのエンジンは、排気量が変わる燃焼がバラバラになり、熱発生パターンの特性が変わってしまった。SKYACTIVは2.0lと1.3lで同じように統一できた。排気量に関係なく、同体質の燃焼特性を実現した。

異なる排気量で特性を揃える
異なる排気量で特性を揃える(クリックして拡大) 出典:マツダ

 最初のエンジンで苦労して1つの答えが出れば、2つ目も答えが近くにあるという形を実現しようとした。共通化はハードばかりでなく特性にもあり得る。それがCAEの役立ったところだ。仕事が増える元を断てる。わざわざエンジンごとに特性を変えようとする人はいない。それでも、排気量ごとに変わってしまい、仕事が増える。それを元から断とうとした。

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