「SKYACTIVエンジン」は電気自動車と同等のCO2排出量を目指す:マツダ 人見光夫氏 SKYACTIVエンジン講演全再録(2/7 ページ)
好調なマツダを支える柱の1つ「SKYACTIVエンジン」。その開発を主導した同社常務執行役員の人見光夫氏が、サイバネットシステムの設立30周年記念イベントで講演。マツダが業績不振にあえぐ中での開発取り組みの他、今後のSKYACTIVエンジンの開発目標や、燃費規制に対する考え方などについて語った。その講演内容をほぼ全再録する。
なぜマツダは内燃機関を選んだか
新技術の開発にはさまざまな課題が付きまとっていた。「大手でも厳しいと思っている規制に少人数で対応できるのか」「他社がさまざまな技術を開発しているが、マツダはどれをやるか」「HVなど大物技術をどうする」「競争力をどう保つ」「長期的な技術力の強化は」など山積していた。
取り組むべきテーマを洗い出すため、エンジンの効率を究極まで改善するロードマップを描いた。テーマが明確になれば、何をやるか迷う必要がなくなる。
技術開発のテーマはたくさんあるように見える。目の前の技術の“山”を登っては下りて、あっちを登ってみようかとチャレンジしては下りる、というのをどこの会社も繰り返す。マツダはいろいろな“山”に登ったり降りたりを繰り返さず、内燃機関の改善という1つのてっぺんだけを目指すことにした。
燃費改善技術はいくらでもあるが、それぞれ同じことを異なる手段でやっているだけだ。手段は何千とあるのに、そのうちの一握りをやっても技術者に達成感はない。シンプルな目標を打ち立てた。
マツダがハイブリッドをやっても儲からないし、人数も足りない。少人数であれば集中して1つの頂点を目指せるし、技術の蓄積も進む。
高圧縮比の実現
エネルギーを損失する要因は排気損失/冷却損失/ポンプ損失/機械抵抗損失の4つだ。そこから派生する7つの制御因子をコントロールするのが燃費改善だ。理想から遠いもの、近いものを洗い出して取り組んだ。
SKYACTIVエンジンは、ガソリンエンジンの7つの因子のうち3つを改善した。その1つが世界一の高圧縮比だ。
これまで高圧縮比化が進んでいなかったのは、異常燃焼(ノッキング)が出やすいから。常識からいえば、高圧縮比ほど点火時期を大きく遅らせないといけない。そこでノッキングを起こらないようにするとトルクがどんどん下がる。いきなり圧縮比を上げようとせず地道にやるのが普通で、どこも14や15は目指さなかった。
マツダは思い切って初めから圧縮比15を目指した。ノック限界トルクは大きく下がると思われてきたが、実は13より先はさほどトルクが下がらないことが分かった。のちにテストして、点火する前に仕事が起きているからだと分かった。
マツダの習慣となっていることだが、新しい技術を探る時は思考も実証も大きく振るようにしている。小さく検証しても、人より早く発見することはできない。
この結果、出力性能としては低速トルクを出せるようになって存在が認められた。燃費も競合他社よりかなり良いものだった。
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