前立腺がんに対するリプログラミング療法の臨床試験に成功:医療技術ニュース
慶應義塾大学は、進行性の前立腺がん患者に対し、抗肝炎ウイルス薬リバビリンによるリプログラミング療法を用いた臨床試験に成功した。抗がん剤とリバビリンを併用して投与し、5例中2例で腫瘍マーカーが低下した。
慶應義塾大学は2015年10月29日、同大医学部の大家基嗣教授らの研究グループが、抗がん剤の効かなくなったがんに再び抗がん剤が効くようにする、リプログラミング療法を用いた臨床試験に成功したと発表した。進行性の前立腺がん患者に対して抗がん剤と抗肝炎ウイルス薬リバビリンを投与し、5例中2例で腫瘍マーカーが低下した。
現在、進行性の前立腺がんでは、抗がん剤ドセタキセルを用いた治療が標準治療となっている。しかし、患者の多くは、この療法を繰り返すうちに効果が減弱し、前立腺がんが再び増殖するようになるという。
同研究グループでは以前、ドセタキセルが効きにくいがん幹細胞性の高いマウス皮下腫瘍モデルにおいて、ドセタキセルとリバビリンを併用し、その有効性を確認。その作用メカニズムとして、リバビリンが抗がん剤が効かない遺伝子発現プロファイルを、抗がん剤が効く遺伝子発現プロファイルに変化させたことが考えられた。
そのため今回、ドセタキセルが効かなくなった進行性の前立腺がん患者に対し、リバビリンを併用したドセタキセル療法の臨床試験を実施した。その結果、5例中2例(40%)で腫瘍マーカーPSAが低下し、1例では骨盤骨の骨転移巣が消失した。また、投与期間中の副作用は軽微だった。
この結果から、リバビリンを併用したドセタキセル療法は、ドセタキセルが効かない前立腺がん患者に対して有効であり、今後、新たな治療法の1つとして期待される。今後は、薬事申請・実地臨床導入に向け、2016年3月をめどに同大大学病院で医師主導型治験を開始する予定だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ペプチドグリカンが免疫制御細胞を誘導して腸炎を抑える仕組みを解明
慶應義塾大学は、腸内の細菌叢を改善するプロバイオティクスであるクロストリジウム属細菌の菌体成分ペプチドグリカンが、免疫調節たんぱく質と免疫制御細胞を誘導し、腸炎を抑える仕組みを解明した。 - 「システムズエンジニアリング」の正しい理解がISO26262対応に役立つ
慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科 准教授の白坂成功氏は、宇宙機「こうのとり」のシステム設計に携わる中で学んだ「システムズエンジニアリング」を広めるべく大学で教べんをとっている。白坂氏に、宇宙機の安全設計や、ISO 26262などの機能安全規格のベースになっているシステムズエンジニアリングについて聞いた。 - 3Dプリンタとインターネットが掛け合わさる領域でこそ本当に面白いモノが生まれる
ローランド ディー. ジー. 主催イベント「monoFab Experience Day」の特別講演に登壇した慶應義塾大学 環境情報学部 准教授 田中浩也氏の講演から、教育における3Dプリンタの可能性、3Dプリンタとインターネットによる新しいモノづくりの在り方について紹介する。 - 3Dプリンタだけのモノづくりは、電子レンジだけで料理するようなもの
Makerムーブメントの原点として高く評価され、再刊が望まれていた「ものづくり革命 パーソナル・ファブリケーションの夜明け」が、「Fab―パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ」として再刊された。本書を監修したFabLab鎌倉の田中浩也氏にインタビュー。「3次元プリンタは電子レンジと似ている」ってどういうこと? - 「やりたいこと」「やるべきこと」「やっていること」が一致する仕事に就け――SIM-Drive 清水浩名誉教授
32歳の時に研究テーマを変えながらも、今や世界的に有名な研究者となった教授がいる。専門性にとらわれず「何でもあり」の発想で次々に画期的な技術を生み出してきた清水教授が没頭しているのは、電気自動車の研究。電気自動車を普及させることで、地球環境やエネルギーの問題を解決したいと真剣に考える清水教授に、理系のキャリアについて語っていただいた。