M2M向け携帯電話通信モジュール大手のテリット、自動車分野にも展開を拡大:車載情報機器
イタリアに本拠を置くTelit Wireless Solutions(テリット)は、M2M/IoT市場向けの携帯電話通信モジュールで世界シェア31%という大手企業だ。NXP SemiconductorsからeCall向けの製品ATOPを買収するなど、自動車分野への事業展開も拡大中である。
イタリアに本拠を置くTelit Wireless Solutions(以下、テリット)という企業を知っているだろうか。M2M(Machine to Machine)やIoT(モノのインターネット)と呼ばれる市場で用いられる携帯電話通信モジュールの大手で、2014年の出荷は約1600万個。世界シェアは31%に達する。
外界と通信接続する自動車――コネクテッドカーが当たり前になる中で、テリットもM2MやIoTの有力なアプリケーションとして自動車向けの展開を強化している。テリットの子会社で自動車業界向けの展開を担当する子会社Telit Automotive SolutionsのCEOを務めるDominikus Hierl(ドミニカス・ヒアール)氏は、「既に、ドイツのAudi(アウディ)や韓国のHyundai Motor(現代自動車)の車載情報機器に採用実績があり、携帯電話通信モジュールの採用決定権を持つティア1サプライヤについても、大手のHarmanやVisteon(ビステオン)、Magneti Marelliとの取引がある。自動車向けの携帯電話通信モジュールではまだ世界シェアは10%にすぎないが、成長率は年率50%と極めて好調だ」と語る。
テリットは2012年から日本での事業展開も始めており、自動車向けでは日本のティア1サプライヤからの採用実績を得ている。「ただしこれは海外市場向け。日本の通信キャリアからの認証を早期に得て、日本国内でも利用できるようにしていきたい」(テリット)という。
セキュアでデータ抽出に優れるM2Mプラットフォーム「deviceWISE」
テリットは2002年からM2M市場における事業展開に注力しており、2011年にはMotorolaのM2M事業部門を買収し事業規模を拡大した。ここまでは携帯電話通信モジュールというハードウェアが事業の中心だったが、ソフトウェアやクラウドといったM2Mプラットフォームに事業を広げるきっかけになったのが、2013年のILS Technologyの買収である。
ILS Technologyは、主に半導体製造ライン向けに「deviceWISE」というM2Mプラットフォームを販売していた。先端半導体製造プロセスという極めて秘匿性の高い情報をやりとりすることもあって、deviceWISEは極めてセキュアであることが特徴になっていた。
ヒアール氏は「このセキュアなdeviceWISEに対応するソフトウェアやAPIを、テリットの携帯電話通信モジュールにあらかじめ組み込んで提供することにより、顧客はM2M/IoTサービスを即座に構築できる。また、deviceWISEのAPIは約130種類あり、顧客はその中から携帯電話通信モジュールに組み込むものを自由に選べるなど柔軟性も高い」と強調する。また、ハードウェア、ソフトウェア、クラウドまで含めたM2Mプラットフォームの充実度もあって、M2M分野でGoogle Cloud PlatformやAmazon Web Service(AWS)のパートナーにもなっている。
Telit Automotive Solutionsも、このdeviceWISEの利便性を自動車業界に向けてアピールしているところだ。「自動車分野で携帯電話通信モジュールを用いたテレマティクスの最大の目的は交通ビッグデータの収集。自動車メーカーも対応を進めているが、それ以上のスピード感でAppleやGoogleといったIT業界が参入してきている。テリットのM2Mプラットフォームはセキュアであり、ビッグデータから有用なデータを抽出する技術でも優れている。自動車メーカーがIT業界に対抗する一助になれるはず」(ヒアール氏)という。
NXPのATOPを買収「高級車メーカーから引き合い」
テリットは携帯電話通信モジュールの他にも、SGPS/GNSSモジュール、Wi-Fiなどの短距離無線通信モジュールも手掛けている。これらに2014年4月から加わったのが、ATOP(Automotive On-Board Platform)だ。
このATOPは、NXP Semiconductorsが、欧州の緊急通報システム「eCall」向けに開発していた製品である。eCallは重大事故の際に自動的に緊急通報することで救命を容易にするシステムで、欧州議会は2018年から新車への標準搭載の義務化を目指している。ATOPには、GPSで測位した位置情報を携帯電話通信によって緊急通報機能が1パッケージに集積されている。
当初のATOPは、全ての新車への搭載義務化という前提もあってり、携帯電話通信機能を第2世代のGSM通信に限定するなどコスト削減を重視した製品だった。
ヒアール氏は「しかしドイツの高級自動車メーカーは、eCallの搭載義務化を逆にチャンスと捉え、eCallの携帯電話通信モジュールを使って充実したテレマティクスサービスを提供することを考えた。そのため、現在のATOPに対する要求は、3GやLTEといったより高速の通信が可能な製品に対する引き合いが強い」と説明する。2018年からの搭載義務化に向けて、ATOPの需要は急激に伸びる見通し。「自動車メーカー1社につき100万個単位になる」(同氏)という。
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