霊長類の脳神経回路を光で操作する手法を開発:医療技術ニュース
京都大学は、複雑に絡み合った霊長類の脳神経回路において、特定の回路だけを光照射で選択的に活性化させる手法の開発に成功した。パーキンソン病やうつ病などの治療法開発に役立つことが期待される。
京都大学は2015年9月24日、複雑に絡み合った霊長類の脳神経回路において、特定の回路だけを光照射で選択的に活性化させる手法の開発に成功したと発表した。同大霊長類研究所の井上謙一助教と高田昌彦教授、筑波大学医学医療系の松本正幸教授の研究グループによるもので、成果は9月21日に英科誌「Nature Communications」電子版に掲載された。
ヒトやサルの脳は、1000億以上の神経細胞が複雑に絡み合った神経回路を作り、高次脳機能を生み出している。マウスなどのげっし類では、特定の神経回路を標的とした機能の操作が可能となっているが、高度な脳機能を持つ霊長類では、特定の神経回路の神経活動だけを適切なタイミングで調節することは、これまで不可能だったという。
同研究グループでは、眼球運動を制御する神経ネットワークのうち、大脳前頭葉の前頭眼野から中脳にある上丘への神経回路(前頭眼野―上丘回路)に着目。光照射によって神経活動を活性化させるタンパク質(チャネルロドプシン2)を、ウイルスベクターを用いて、アカゲザルの同回路にのみ選択的に発現させた。次に、チャネルロドプシン2を発現した前頭眼野の神経細胞の軸索末端を光刺激したことろ、上丘の神経細胞の神経活動の上昇が確認された。同成果は、この手法によって、前頭眼野―上丘回路を選択的に活性化させることに成功したことを示すという。
さらに同研究では、光刺激による前頭眼野―上丘回路の選択的な活性化が眼球運動に与える影響を調べた。実験では、サルがスクリーン中央の固視点を見ている途中に前頭眼野―上丘回路を光刺激すると、サルは特定の位置に視線を動かした。この位置は、記録している上丘の神経細胞が、刺激が現れた際に最も活動を上昇させる位置とほぼ一致していたという。これらの結果などから、前頭眼野から上丘への投射系のみの活性化により、眼球運動の誘発や変化が生じることが明らかになった。
今回の成果は、ヒトの高次脳機能の解明や精神・神経疾患の病態の解明につながることが期待されるという。また、前頭眼野―上丘回路への光照射により、上丘の神経活動をコントロールする技術を応用することで、パーキンソン病やうつ病の治療で用いられる脳深部刺激療法を特定の回路を対象に行えるようになり、より効果的な治療法の開発に役立つことが期待されるとしている。
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