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新型「プリウス」は目標燃費40km/lをどうやって達成するのかエコカー技術(3/6 ページ)

2015年12月に発売予定の新型「プリウス」に搭載される新技術が発表された。JC08モード燃費40km/l(リットル)を目標に開発されている新型プリウスだが、エンジンやモーターの改良の他にもさまざまな技術を積み重ねることでその目標を実現しようとしている。

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「THS II」の可能性を高めた新開発のハイブリッドシステム

トヨタ自動車の伏木俊介氏
トヨタ自動車の伏木俊介氏

 新開発のハイブリッドシステムについては、トヨタ自動車 HVシステム開発統括部 主幹の伏木俊介氏が解説した。伏木氏は「新型プリウスに採用した新開発のハイブリッドシステムは、JC08モード燃費40km/lを目標としながら、3代目プリウスに採用している現行のハイブリッドシステム『THS II』の可能性を高めるため、損失を低減し、システムの能力を最大化する方向性で開発を進めた」と述べる。

 3代目プリウスのJC08モード燃費は32.6km/lである(「Lグレード」の場合)。新型プリウスが目標とする40km/lまでの向上比率は22.7%になる。この22.7%の内訳は、エンジンが5.0%、トランスアクスルが2.6%、モーターが3.2%、PCU(パワーコントロールユニット)が2.4%、駆動用バッテリーとハイブリッドシステムの制御が5.0%、残りの4.5%が車両となっている。以下に、エンジン、トランスアクスル、モーター、PCU、走行用バッテリー、ハイブリッドシステムの制御にどのような技術を採用したのかを紹介していこう。

3代目プリウスの燃費32.6km/lから新型プリウスの目標燃費40km/lを達成するため技術の内訳
3代目プリウスの燃費32.6km/lから新型プリウスの目標燃費40km/lを達成するため技術の内訳(クリックで拡大) 出典:トヨタ自動車

アトキンソンサイクルエンジンの最大熱効率はディーゼルと同レベル

 まずエンジンは、3代目プリウスと同じ、排気量1.8lの直列4気筒アトキンソンサイクルエンジン「2ZR-FXE」を採用している。ただし、その最大熱効率は、3代目プリウスにおける38.5%からさらに1.5%向上し、40%を達成している。この40%という最大熱効率は、ディーゼルエンジン並みであり、ガソリンエンジンとしては世界トップレベルだという。

新開発ハイブリッドシステムのエンジン「2ZR-FXE」のカットモデル最大熱効率は3代目「プリウス」の38.5%から1.5%向上し40%になっている 新開発ハイブリッドシステムのエンジン「2ZR-FXE」のカットモデル(左)。最大熱効率は3代目「プリウス」の38.5%から1.5%向上し40%になっている(右)(クリックで拡大) 出典:トヨタ自動車

 最大熱効率40%を達成するための取り組みは大まかに分けて3つある。1つ目は、吸気ポートの形状変更による気筒内の気流の強化だ。ピストンの駆動方向であるタンブル方向の気流(タンブル流、縦流)を直線化して、タンブル方向の気流の強さを示すタンブル比を0.8から2.8に高めた。これによって燃焼速度を高められるとともに、大量のEGR(排気再循環)ガスを導入して燃焼効率の向上が可能になる。

 2つ目は、先述した大量のEGRガスの導入を可能にするために変更した、吸気マニホールド内におけるEGR分配通路になる。EGRガスを各気筒により多く、そしてより均等に流入させられるように、トーナメント式の分岐を採用した。

 3つ目になるのが、シリンダーボア壁温を最適化するウォータージャケットスペーサーである。EXPADと呼ぶ発泡ゴムを装着することで、シリンダーボア部の排気側上部の冷却によってノッキングを改善し、中下部の保温によってフリクションを低減できる。

最大熱効率40%を達成するための3つの取り組み
最大熱効率40%を達成するための3つの取り組み。左から、吸気ポートの形状変更による気筒内の気流の強化、吸気マニホールド内におけるEGR分配通路、シリンダーボア壁温を最適化するウォータージャケットスペーサーである(クリックで拡大) 出典:トヨタ自動車

 なおエンジンの最高出力は72kW(5200rpm)、最大トルクは142Nm(3600rpm)で、圧縮比は13.1である。3代目プリウスの2ZR-FXEは、73kW(5200rpm)、最大トルクは142Nm(4000rpm)で、圧縮比は13.0だった。

 エンジン関連では冷却システムにも改良を加えている。3代目プリウスでは冷却水を循環させるためのウォーターポンプの電動化が燃費向上に寄与していた。新型プリウスでは、この電動ウォーターポンプによるエンジン冷却水の経路を、エンジン本体と排気熱回収器・ヒーターの2系統に分岐した。フローシャッティングバルブと呼ぶ切替弁を設けることで、2系統への最適な冷却水の循環を実現した。

エンジンの2系統冷却システムの概要
エンジンの2系統冷却システムの概要。フローシャッティングバルブと呼ぶ切替弁で、2系統への冷却水の循環を最適化する(クリックで拡大) 出典:トヨタ自動車
新開発の排気熱回収器
新開発の排気熱回収器(クリックで拡大) 出典:トヨタ自動車

 3代目プリウスは、エンジン暖機までに冷却水の循環を停止している間、ヒーターによる暖房を利用できない仕様になっていた。このため冬場などで車室内が寒い時に、即座に暖房で暖められないことが課題になっていた。冷却水の2系統分岐によって、エンジン暖機前であっても、ヒーター側に冷却水を循環して暖房をすぐに利用できるようになった。

 また排気熱回収器にも改良を加えている。3代目プリウスで採用された排気熱回収器は、エンジンの排気熱を回収して冷却水の温度を素早く上げることで、エンジン暖機を効率化する部品だ。新型プリウスでは、新たにフィン構造の熱交換器を採用し、小型化と排気熱回収性能の向上を果たしている。

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