コンピュータ・アーキテクトのためのモーター制御:SYSTEM DESIGN JOURNAL(3/5 ページ)
「モーターを制御する」。一見すると簡単な課題に思えますが、その原理や課題、現状を再確認すると、リアルタイムシステムアーキテクチャの今後の方向性を示していることが分かります。
センサーレス制御
まず、シャフトエンコーダです。FOCアルゴリズムには、シャフト角度の正確なフィードバックが必要です。従来、このデータは、シャフトエンコーダ(モーターシャフトに取り付けた各種のデバイス)から得ていました。しかし、シャフトエンコーダを使用すると、システム内の各モーターのコスト、サイズ、重量、故障モードの増加に加え、コントローラーに業界標準インタフェースが必要になります。
原理上はステータ巻線の電圧および電流だけで、ロータ位置を決定するのに十分な情報が得られます。そうすればセンサーレス動作が可能です。少なくともシャフトエンコーダをなくし、1個の電流センサーと3個の電圧センサーに置き換え、それらの信号を全て、正確なアナログ/デジタル変換に送れば、機械的複雑性の多くをソフトウェアに移転することが可能になります。
考え方はこうです。巻線の両端間の電圧には、大きく分けて直列抵抗によるIR降下と、巻線インダクタンスによる逆起電力という2つの成分があります。しかし、その逆起電力自体には、巻線の自己インダクタンスと、巻線を通り抜けるローターからの磁力線による鎖交磁束という2つの発生源があります。その電圧変化の2番目の成分を特定することができれば、ロータ角度を計算することが原理上可能です。実際にそうするためには、各サンプル区間でパーク変換、積分の評価、逆三角関数を含め、ちょっとした計算を行う必要があります。
残念ながら実験環境は別として、巻線抵抗や誘導係数(インダクタンス)などによって、実際のモーター特性に関する正確なデータを得られる見込みはありません。それらの値はモーターによって異なるだけでなく、温度や経年などの変数の影響も受けるからです。
そのため、実質的な状態変数行列方程式からロータ角度を抽出する方法に代わる、さまざまな手法が提案されています。それらの手法には、ローターに起因する電圧リップルにロックするPLL(Phase-LockedLoop)、ローター位置を計算し、その解を以前のデータと比較する状態推定、究極の推定器であるカルマンフィルター(Kalman filter)などがあります。これらの手法はサイクルあたり30回以上の算術演算が必要であり、その計算負荷は直接計算の2倍以上になります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.