診療記録からIoTデータ連携のハブへと進化する電子カルテ:医療機器開発者のための医療IT入門(3)(1/3 ページ)
医療機器開発者向けに、医療情報システムに代表される医療ITの歴史的背景や仕組みを概説する本連載。第3回は、診療プロセスの中核を担う電子カルテシステムを取り上げる。
医療データのハブ的な役割を果たす電子カルテ
第2回で紹介した臨床情報システム(CIS:Clinical Information Systems)の中で、診療部門のシステムから部門横断的/職種横断的なシステムへと発展していったのが電子カルテである。
米国では、電子カルテに関する統一的な定義はなく、「電子医療記録(EMR:Electronic Medical Record)」、「電子健康記録(EHR:Electronic Health Record)」、「個人健康記録(PHR:Personal Health Record)」といった表現がある。
表1は、2008年に米国医療情報技術アライアンス(NAHIT)が示したEMR、EHR、PHRの定義である。1つの医療機関内で利用されるものがEMR、複数の医療機関で利用されるものがEHR、個人が利用/管理できるものがPHRというのが一般的な考え方だ。
図1は、米国の病院における電子医療記録(EMR)の全体イメージを例示したものである。病院の電子カルテシステムは、医療データのハブ的な役割を果たしており、医師が患者ごとに作成した指示/結果を文書化/電子化した診療録に加えて、患者を識別するマスター患者インデックス(MPI:Master Patient Index)、共通辞書の役割を果たす制御された医療語彙(CMV:Controlled Medical Vocabulary)、診療プロセスを可視化したワークフロー機能、さまざまなデータを保存・管理する臨床データリポジトリ(CDR:Clinical Data Repository)、さらには臨床意思決定支援機能などが備わっている。
米国オバマ政権は、2008年のリーマンショック後の景気浮揚策として「2009年米国再生再投資法(ARRA)」および「経済的および臨床的健全性のための医療情報技術に関する法律(HITECH)」を制定し、医療機関における電子カルテ導入支援策「Meaningful Use Stage 1」を推進してきた。
電子カルテの相互運用性や標準化に関しては、保健福祉省(HHS)傘下のメディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)と、国家医療IT調整室(ONC)が定義した標準規格(Certified EHR Technology)をクリアしたベンダー製品のみを、経済インセンティブの対象とすることによって促進を図っている(関連情報)。また、電子カルテ導入支援策の実施と同時に、患者データ保護を規定した「HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996:医療保険の携行性と責任に関する法律)」に基づくセキュリティ/プライバシー対策の強化を求めている。
2011年9月に国家医療IT調整室が公表した「連邦ヘルスIT戦略計画2011−2015」でも、「ヘルスITの意味のある利用による電子カルテの採用と情報交換の達成」が第1の目標に掲げられており(関連資料、PDFファイル)、米国における病院の電子カルテ導入率は、2009年時点の12%から2012年時点には44%まで増加した。今後は、電子カルテシステムを起点とする医療データの連携/利活用促進が目標になっている。
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