10Pbps伝送を可能にする「マルチコア・マルチモード光ファイバー」:5分でわかる最新キーワード解説
1本の光ファイバーで、10ペタbpsを超える超高速伝送を可能にする技術が「マルチコア・マルチモード光ファイバー」です。マルチコア伝送は既に研究が進められていましたが、NICTとKDDIがそれぞれ独自の方法でこれまでの壁を打ち破りました。
今回のテーマは1本の光ファイバーに多数のコアを備え、さらにそれぞれのコアでマルチモードで光が伝送できる「マルチコア・マルチモード光ファイバー」です。これまでのマルチコア光ファイバーの限界を、情報通信研究機構(NICT)とKDDI研究所が、それぞれ独自の方法で打ち破りました。
10Pbps伝送を可能にする「マルチコア・マルチモード光ファイバー」
1本の光ファイバーの中に光の通り道となる「コア」が複数あるものが「マルチコア光ファイバー」。コアの太さなどによって決まる、光が伝わりやすい特定の何通りかの光の通り道のことを「伝搬モード」あるいは単に「モード」といい、複数のコアそれぞれに幾つかのモードで光を伝送できるのが「マルチコア・マルチモード光ファイバー」だ。
図1にNICTが横浜国立大学、住友電工と共同でこのたび開発した世界最多コア数である36コア・3モード光ファイバーの実物を示す。左の写真の青いリールから伸びている透明な髪の毛のような光ファイバーの中に、36本の芯線(コア)が詰め込まれている(上に見えている円形の物体は1円玉。スケール感が分かるだろうか)。その先に接続しているのはマイクロスコープで、右はファイバーの断面を拡大したイメージだ。
36コア・3モードの光ファイバーなら1本の光ファイバー中に36×3=108の空間チャネル(光の通り道)があることになる。既に光ファイバー技術は1つのモードの光だけを通す「シングルコア・シングルモード」光ファイバーで100Tbpsのスピードが達成されているため、100T×108で1万0800Tbps≒10Pbps超の伝送容量の実現が見えてきた(P=ペタは10の15乗、1000兆)。
また、この36コア・3モード光ファイバーの発表とほぼ同時に、KDDI研究所は別の方法でやはり新しい光ファイバーの開発と実証実験の成功を発表している。こちらは19コア光ファイバーを利用しているが、伝送できる光のモードは6モードとNICT方式の倍。19×6で114の空間チャネルが使える。こちらも10Pbps超の伝送容量を可能にする新技術だ。
10Pbpsというと数値が大きすぎてイメージしにくいが、例えば2時間のハイビジョン映画なら1万本分を1秒で送れる容量だ。また8K映像の非圧縮伝送だと約24Gbpsの容量が必要だが、単純に割り算すると41万チャネル分以上が同時伝送できる速さに相当する。
- 10Pbps伝送容量実現に必要な技術は
光ファイバーの高速・長距離伝送研究の近年の話題といえば、2012年のNICTによる19コア光ファイバーの開発、その技術を下敷きにした12コア光ファイバーによる1.01Pbps、52.4km伝送(NTTなど)、14コア光ファイバーによる1.05Pbpsでの3km伝送(米NEC)実験の成功が挙げられる(マルチコア光ファイバーについては本コーナーの過去記事も参照されたい)。
またその2013年9月には、7コア光ファイバーによる140Tbpsでの約7300km伝送(ニューヨークからローマまでの距離に相当:KDDI)が成功している。その時点で、容量距離積(「関連するキーワード」の項参照)が初めて1エクサビット(エクサは10の18乗=100万兆)に達した。NTTも同時期に1エクサビット容量距離積を達成している。
1Pbpsはもともと1本の光ファイバーの伝送速度として達成目標とされてきた数字。これらの実証成功により、光ファイバーの増速競争はひとまず一段落したかのように見えたが、研究者たちはさらなる可能性を求めて限界を突破する方法を探していた。それが、マルチコア光ファイバーのマルチモード化だ。上の事例は全てシングルモードでの伝送を前提としたものだが、コアを通る光のモードが複数使えれば、モードが増えるごとに伝送容量が2倍、3倍と増えることになる。しかもコアの数をさらに増やせば、それに応じて容量が増える。
10Pbps伝送容量実現に必要な技術とは
では10Pbps伝送を実現させる要素技術について簡単に紹介していこう。
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